感動の再生物語『裸足になって』作品レビュー

作品紹介

全身全霊のダンスがあなたに語りかける悲しみ、怒り、喜び、祈り—

抑圧された社会の中で、手を取り合う女性たちの関わり合いを通じて、人間の深い慈愛と湧き溢れる生命力を瑞々しく描き出し、手話とダンスで表現することの自由と美しさを力強く訴えかける。

本作を手掛けたのは第72回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品された『パピチャ未来へのランウェイ』のムニア・メドゥール監督。製作総指揮は『コーダあいのうた』でろう者の俳優として初めてのアカデミー助演男優賞を受賞したトロイ・コッツァーが務める。主人公フーリアを体当たりで演じたのは、アルジェリア出身の期待の新星リナ・クードリ。あたたかな陽光が降り注ぐ極上の一本が、あなたの五感と心を解放する。

ストーリー

北アフリカのイスラム国家、アルジェリア。内戦の傷が癒えきらぬ不安定な社会の中でバレエダンサーになることを夢見るフーリアは、貧しくもささやかな生活を送っていた。しかしある夜、男に階段から突き落とされ大怪我を負い、踊ることも声を出すこともできなくなってしまう。すべてを失い、死んだも同然の抜け殻となったフーリア。そんな失意の中、彼女がリハビリ施設で出会ったのは、それぞれ心に傷を抱えたろう者の女性たちだった。「あなたダンサーなのね。わたしたちにダンスを教えて」その一言から始まったダンス教室で、また再び“生きる”情熱を取り戻していく―

作品レビュー

バレエダンサーを目指す少女の悲劇と再生の物語である。主人公フーリアは一流のバレエダンサーを目指し訓練に明け暮れる日々だった。彼女の母親もベリーダンスのダンサーで、母子家庭であるためか、フーリア自身もベッドメイクの仕事をしながら慎ましく暮らしていた。

有望なダンサーであった彼女にある日ひどい不幸が襲い掛かる。危険な場所へ出入りしていた理由ものちに明らかになるが、痛ましい気持ちにさせられる。

許しがたい暴力と犯罪の犠牲となり、障がい者となってしまった彼女は絶望したが、そこから新たな出会いが訪れる。リハビリ施設で出会った女性達は皆それぞれの障害や心の傷を抱えていた。

リハビリ仲間の女性達のためにダンスを教え始めたフーリアは再び笑顔を見せ始め、明るさを取り戻してゆく。彼女が癒えて元気になってゆく姿を嬉しく見ていたが、その後も次々と事件や不幸が彼女を襲う。

北アフリカ、アルジェリアを舞台に描かれる本作品には愕然とさせられる描写が多々あり、歯がゆく悔しい気持ちにさせられる。戦争やテロの傷跡や腐敗した警察など、普通に生きることもままならない現実がまざまざと描かれる。

犯罪や危険と隣り合わせのこの国の問題や女性を取り巻く厳しい社会背景に解決策はないように思われ、怒りや悔しさに息が詰まるような苦しさを覚える。

そんな中、フーリアが振付を手掛け仲間と完成させたダンスには彼女の味わってきた思いが強く込められていた。激しい怒りや悲しみ、それでも生きることを諦めない力強い情熱。深い感情が余すところなく表現されている。

皮肉にも、フーリアが苦難や悲しみを経験しないままでいたならたどり着けなかったであろうところへ彼女は到達しているのである。見ていて辛くなる場面も多いストーリーだが、ラストのダンスシーンは圧巻である。

厳しい境遇にありながら、それでも消すことはできない強い思いを表現する女性達は凛々しく輝いている。彼女たちは困難を乗り越え道を切り開いてゆくことを強く宣言するかのように映る。

どんな国も、不遇の環境であろうと、変わるのは不可能ではないと感じられる。強いメッセージを放つ作品であった。

『裸足になって』7月21日公開

製作総指揮：トロイ・コッツァー『コーダあいのうた』
監督：ムニア・メドゥール　『パピチャ未来へのランウェイ』
出演：リナ・クードリ、ラシダ・ブラクニ、ナディア・カシ
原題：HOURIA／99分／フランス・アルジェリア／カラー／シネスコ／5.1chデジタル／
字幕翻訳：丸山垂穂
公式サイト
©THE INK CONNECTION – HIGH SEA – CIRTA FILMS – SCOPE PICTURES FRANCE 2 CINÉMA –LES PRODUCTIONS DU CH’TIHI – SAME PLAYER, SOLAR ENTERTAINMENT

投稿者プロフィール

Kana: フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。