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『ポトフ 美食家と料理人』12月15日公開 作品レビュー

  • 2023年12月14日

作品紹介

第76回カンヌ国際映画祭 最優秀監督賞受賞!第96回アカデミー賞 国際長編映画賞フランス代表!名匠トラン・アン・ユンが描く料理への情熱で強く結ばれた美食家と料理人の愛と人生を味わう感動の物語。

時は19世紀末、舞台はフランス北西部の森の中に佇むアンティークなシャトー。そこに暮らす有名な美食家ドダンと天才料理人ウージェニーが、究極のメニューを次々と創り出す。ウージェニーを演じるのはオスカー女優のジュリエット・ビノシュ、ドダンにはブノワ・マジメル。深い絆と信頼で結ばれ互いをリスペクトしているが、プロとして自立しているウージェニーは、ドダンのプロポーズを断り続けてきた。そんな二人の料理への情熱と愛の行方が描かれる。

監督は繊細な映像美で高く評価されるトラン・アン・ユン。調理過程の撮影はワンカット、魚と肉を焼く音が音楽、ミシュラン三つ星シェフのピエール・ガニェールが完全監修。
新たな文化が繁栄した時代“ベルエポック”に、“美食”もまた芸術のひとつとして追求された。つまり、〈食〉とは一大エンターテインメントだということ。その深さと楽しさを存分に堪能させてくれる、〈新たなるグルメ映画の傑作〉が誕生した!

ストーリー

スクリーンを埋め尽くす100年前の極上メニュー。食を芸術に高めた二人に心と味覚を揺さぶられる 新たなるグルメ映画の金字塔!

〈食〉を追求し芸術にまで高めた美食家ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理人ウージェニー。二人が生み出した極上の料理は人々を驚かせ、類まれなる才能への熱狂はヨーロッパ各国にまで広がっていた。ある時、ユーラシア皇太子から晩餐会に招待されたドダンは、豪華なだけで論理もテーマもない大量の料理にうんざりする。〈食〉の真髄を示すべく、最もシンプルな料理〈ポトフ〉で皇太子をもてなすとウージェニーに打ち明けるドダン。だが、そんな中、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンは人生初の挑戦として、すべて自分の手で作る渾身の料理で、愛するウージェニーを元気づけようと決意するのだが──。

作品レビュー

料理に対する尽きない情熱と崇拝を感じさせられる。冒頭から淡々と料理のシーンが続くのだが、不思議と飽きることはなく、食材の変化や変貌に見入ってしまうことだろう。日本人である私達にとっては、見慣れない調理法や食材の形状が異国的で、よりダイナミックに映る。

古い時代の調理場や調理道具はシンプルで美しく、すべてが過不足なく調えられている。美食会のナポレオンと謳われるドダンとその友人たちのために、才能を余すことなく発揮し最高の料理を提供する料理人の姿が凛々しく清々しい。

美食家として名を轟かせるドダンと彼の料理人であり、物語のヒロイン、ウージェニーとの奇妙な関係にも興味を惹かれる。同じ家で暮らし、美食と料理に人生を捧げ続ける彼らは尊敬し合い愛し合っているようだが、プロポーズは断り続けるウージェニー。大人のラブストーリーである。

料理はごく身近で日常的な行為ながら、それに対する姿勢は人によってさまざまである。私自身はそこへあまりエネルギーをかけたいとも思わないが、料理すること自体を愛してやまない人々もいる。料理が喜びであるならその人は非常に幸運で恵まれていると思う。

愛すべき友人や仲間に恵まれ、新たなチャレンジや新しい才能と出会い、最高の環境で究極のメニューを生み出し続けるドダンとウージェニーがやがて直面する運命は容赦のないものである。

突然訪れる絶望の中で、やがて自分を取り戻してゆく道もまた、食を通じて希望が見いだされてゆくのだと実感した。

食との関わり方も人それぞれ異なるはずである。あまりに普通のことでもあり、無意識におろそかにしている時もあるだろう。しかし最も根本的で、この上なく本質的で、命そのものに向き合う行為であることを思い出させられた。

食に対するあり方は生きる姿勢そのものでもある。登場人物たちの日常に触れながら、自らの日々のあり方について考えさせられる力強い作品であった。

『ポトフ 美食家と料理人』12月15日公開


監督・脚本:トラン・アン・ユン(『夏至』 『青いパパイヤの香り』 『ノルウェイの森』)/料理監修:ピエール・ガニェール
出演:ジュリエット・ビノシュ(『ショコラ』 『真実』)、ブノワ・マジメル(『ピアニスト』 『愛する人に伝える言葉』)
英題:The Pot-au-Feu/2023年/フランス/ビスタ/5.1ch/136 分/字幕翻訳:古田由紀子
公式サイト
©2023 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA

投稿者プロフィール

Kana
フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。
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