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第94回アカデミー賞®作品賞受賞『コーダ あいのうた』作品レビュー

  • 2022年1月9日

作品紹介

家族の中でたった一人“健聴者”である少女は、「歌うこと」を夢みた。聴こえない耳に届く、最高にイカした歌声が、今日、世界の色を塗り替える。

今年1月に行われたサンダンス映画祭で、アカデミー賞®へ繋がると呼び声の高い観客賞を始め4冠に輝き、配給権の争奪戦が勃発!映画祭史上最高額【約26億円】で落札されたことも大きなニュースになりました。

主人公のルビーには、大ヒットTVシリーズ「ロック&キー」で“NEXTエマ・ワトソン”と話題をさらい人気沸騰中のエミリア・ジョーンズ。特訓をうけた歌と手話でどこまでも自然にルビーを演じ、観る者を魅了する。共演は『シング・ストリート』で観る者の胸を共感で震わせたフェルディア・ウォルシュ=ピーロ。
そしてルビーの家族を演じるのは、『愛は静けさの中に』のオスカー女優マーリー・マトリンを始め、全員が実際に耳の聞こえない俳優たち。
そこまでキャスティングにこだわった監督は、『タルーラ 〜彼女たちの事情〜』のシアン・ヘダー。

<CODA(コーダ)>は、Children of Deaf Adults= “耳の聴こえない両親に育てられた子ども”の意。また、音楽用語としては、楽曲や楽章の締めを表す=新たな章の始まりの意も。本作は2015年に日本でも公開されたフランス映画「エール!」のハリウッド版リメイクでもあります。抱き合い支え合っていた家族が、それぞれの夢に向かって歩き始めることで、さらに心の絆を強くする──熱く美しい瞬間を共に生き、あなたの〈大好きな一本〉になる、爽快な感動作!

ストーリー

豊かな自然に恵まれた海の町で暮らす高校生のルビーは、両親と兄の4人家族の中で一人だけ耳が聞こえる。陽気で優しい家族のために、ルビーは幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。
新学期、秘かに憧れるクラスメイトのマイルズと同じ合唱クラブを選択するルビー。すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、都会の名門音楽大学の受験を強く勧める。
だが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対。悩んだルビーは夢よりも家族の助けを続けることを選ぶと決めるが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父は、意外な決意をし・・・。

作品レビュー

「Coda(コーダ)」とは、聴覚に障害のある親を持つ子供たちを指す言葉だという。

主人公ルビーはろうあ者の家族を持つ女子高生である。家族の中で聴覚があるのは彼女のみであり、両親と兄は聴覚障害がある。家族とは手話でコミュニケーションを取り、健常者たちとの通訳の役割を担っている。

それだけでも大変な状況だが、家業が漁師のため、日々船に乗り、漁の仕事も助けている。若く多感な時期、家の手伝いが忙しいこともストレスフルな日々である。

家族や家業のために、からかいの対象になることも多かったルビーはどちらかといえば内気であった。だが歌うことが好きで、合唱クラブへ入部したことが変化の始まりだった。

合唱部の生徒たちは、皆が良い声をしていて、音域を確かめるためにそれぞれが歌うシーンは短いながらも印象的である。

音楽を通してルビーの生活は彩り始めるが、家族のための役割や家の経済状況は彼女へ重くのしかかっていた。歌の才能があっても、家族の誰も彼女の歌声を聴くことができない環境とは・・・

生まれた時から他の家族のために、重要で不可欠な役割を背負わされてきた彼女は不憫にも見える。

しかしこのような状況は必ずしもルビーに限ったことではないように思えた。子ども時代から多くの役割を負わされる状況は酷に映るが、家業や手話の通訳ではなくとも、家族のために自身の本当にやりたい事や、進みたい道を断念しているケースは無数にあるのではないだろうか。

家族を養っている父親や、子育て中の母親、子離れできずにいる親のそばにいる子ども達など、それぞれの環境で、愛する家族のために無意識で自分自身を縛り付けたままでいる人は多いかもしれない。

だからこれは、自分自身を思い出し、取り戻すためのストーリーなのだと感じる。気付かぬふりをしていた、諦めつつあった自らの情熱と向き合い、勇気を出して表現する物語である。

ルビーが歌うシーンはいずれも引き込まれるが、終盤に歌う場面はとりわけ感慨深く、涙なくしては見られない。日々複雑な問題に直面し、精一杯向き合ってきたルビーと、彼女を応援し理解しようと努力する家族たちの姿に心ふるわせられる。

ろうあ者の役には実際にろうあ者である役者を起用している点も、リアリティあふれ、それぞれの困難な役へ挑んだ俳優たち、困難な作品作りへ挑んだクリエイター達の情熱と気概に唸らされる。

当作品の元になった2015年日本公開のフランス映画「エール!」も名作だが、今回の「コーダ あいのうた」も大変見応えあるものになっている。アカデミー賞の前哨戦といわれるサンダンス映画祭で史上最多の4冠に輝いたという話題作でもある。多くの人に観てもらいたい感動作となっている。

予告動画

『コーダ あいのうた』

監督・脚本: シアン・ヘダー
出演: エミリア・ジョーンズ「ロック&キー」、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ『シング・ストリート』、マーリー・マトリン『愛は静けさの中に』
原題:CODA/2021年/アメリカ/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/112分/PG12
公式サイト
© 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

投稿者プロフィール

Kana
フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。
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