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ジェームズ・ワン製作の新作ホラー「ラ・ヨローナ ~泣く女~」作品レビュー

決して、水に近づいてはいけない―。

作品紹介

中南米に古くから伝わる怪談「ラ・ヨローナ」を題材に、「死霊館」シリーズのジェームズ・ワン製作で描くホラー。
愛する夫に浮気をされ、嫉妬に狂った結果、夫が世界で一番愛する我が子を溺死させてしまった女、ヨローナ。
そのことを後悔し、嘆き苦しんだ彼女は自ら川に身を投げた。
呪いとなってこの世をさまようヨローナは、子どもたちをさらっていく。 

ストーリー

1970年代のロサンゼルス。不可解な死を遂げた子供の母親が、不吉な警告を発する。 しかし、それを無視したソーシャルワーカーのアンナ(リンダ・カデリーニ)と彼女の子供たちは、ほどなくしてある女の”泣き声”を聞いてしまう―。
その日を境に数々の恐ろしい現象に襲われることとなった家族は、教会に助けを求めるが、そこで語られたのは、呪われたすすり泣く女”ヨローナ”の存在だった―。
ヨローナはプールやバスタブ、トイレであろうが、水のある所に現れる。果たして家族は逃げ場のない恐怖から逃れることはできるのか―。
生き延びたければ、決して、水のある所に近付いてはいけない。

予告動画

試写の感想

本作の下敷きとなった怪談「ラ・ヨローナ」の物語は、あまり日本人には馴染みのない話だろう。中南米に伝わるこの怪談の筋書はこうだ。幸せな家庭を築いたある女は、ある時、愛する夫の浮気を知ってしまう。嫉妬心に燃え狂った女は、夫が溺愛する息子たちを手にかけてしまうのだ。我に返った女は、我が子を殺めた事実を受け入れることができず、最後には自らも川に飛び込み命を絶った。

殺めてしまった我が子の命と引き換えに、別の子どもの魂を求める女は、生贄となる子どもを探してこの世をさまよい続けているそうだ。日本でいうところの「口裂け女」や「トイレの花子さん」のように、「ラ・ヨローナ」は中南米において最もポピュラーな怪談として何世代にもわたって語り継がれているという。

さて、映画の話に戻ろう。本作は、1973年のロサンゼルスを舞台に、「ラ・ヨローナ」の物語を描き出している。夫を亡くしたシングルマザーのアンナ・テート=ガルシア(リンダ・カデリーナ)は、困窮している人々を救済し、社会的な援助を提供するソーシャルワーカーとして、日々多忙を極める女性だ。アンナはふたりの小さな子どもたち、クリスとサムを育てる、たくましい女性として描かれている。

そんなアンナはソーシャルワーカーとして、パトリシア・アルバレズ(パトリシア・べラスケア)の家を訪れる。家庭内において、子どもに対する虐待を疑われたパトリシアは、最初はアンナの訪問に嫌悪感を示す。ほどなくして訪問を受け入れたパトリシアだが、そこでアンナが目にしたのは、クローゼットに閉じ込められたふたりの兄弟だった。パトリシアは実の子どもたちを薄暗いクローゼットに閉じ込め、何かに怯えている様子だ。アンナは南京錠を解き、子どもたちを自由にするのだが、これが恐怖の始まりだった。

無論、アンナの行動は善意から来るものだったが、この行動がパトリシアの子どもたち、そしてアンナ自身の子どもたちにまで悲劇を招くとは、思いもよらずに……。さて、題名の「ラ・ヨローナ」は日本語で、「よく泣く女」などと訳すことができる。副題の「泣く女」の通り、映画では、子どもの命を求めて果てなくさまよう女のすすり泣く声が印象的だ。この哀しそうな声に恐怖し、震えることだろう。さらに注目すべきは、この映画に登場する母親たちは夫を喪っていて、またそれぞれには2人の子どもたちがいる、という共通点があることだ。作中の母親、アンナをはじめパトリシア、泣き女ことヨローナでさえ、愛する子どもたちのために行動しているということ。ホラーという題材に隠されているのは、母親の愛の物語だ。

また余談だが、ディズニー映画『リメンバー・ミー』(2017)の作中で、唯一既存の楽曲として使用された曲がある。「哀しきジョローナ」というナンバーなのだが、この曲はなにを隠そう「ラ・ヨローナ」の物語をうたったものだ。中南米に伝わる「ラ・ヨローナ」の物語は、歌になるほど一般的で、親しまれた怪談であるという証拠だろう。この度の映画は『死霊館』の監督ジェームズ・ワンがプロデュースに名を連ねている。映画は『死霊館』シリーズの歴とした最新作で、ほか作品との繋がりも示されている。ジャパニーズ・ホラーの繊細さと、海外ホラーの大胆さが融合する、ハイブリットなホラー描写は秀逸だ。

「ラ・ヨローナ ~泣く女~」5月10日 札幌シネマフロンティア 他全国で公開

出演 : リンダ・カデリーニ(アンナ)
レイモンド・クルツ(ラファエル)
パトリシア・ベラスケス(パトリシア)
ショーン・パトリック・トーマス(クープ)
ジェイニー=リン・キンチェン(サム)
ローマン・クリストウ(クリス)

プロデューサー:ジェームズ・ワン(「死霊館」シリーズ)、ゲイリー・ドーベルマン(「アナベル」シリーズ、「IT/イット」シリーズ)、エミール・グラッドストーン
監督:マイケル・チャベス
脚本:ミッキ・ドートリー&トビアス・イアコニス
撮影:マイケル・バージェス 美術:メラニー・ジョーンズ
編集:ピーター・グヴォザス
衣装:ミーガン・スパッツ
音楽:ジョゼフ・ビシャラ(「死霊館」シリーズ、「アナベル 死霊館の人形」)
上映時間 : 93分
配給 : ワーナー・ブラザース
原題 :THE CURSE OF LA LLORONA
Film Hashtag #ヨローナ
オフィシャルサイト
©2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

投稿者プロフィール

Hayato Otsuki
1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。
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