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『秘密の森の、その向こう』作品レビュー

  • 2022年9月2日

作品紹介

<不滅の名作>と絶賛された『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマ監督最新作!各国の映画賞を席巻し、すべてのカットに美が宿る完璧な映像と忘れ得ぬ愛の物語を、世界中の人々が「生涯の一本」としてその胸に刻み付けた『燃ゆる女の肖像』。その名作を生み出したセリーヌ・シアマ監督が、真骨頂である女の深淵を描きつつ、全く新しい扉を開く最新作を完成させた。それは、8歳の少女を主人公にした、<喪失>と<癒し>の物語。各国の映画祭で惜しみない絶賛評を受け続けている。

ネリーとマリオンには、これが映画初出演となるジョセフィーヌ&ガブリエルのサンス姉妹。喪失という痛みを抱えた娘と母が、時空を超えて出会うことで見つけるものとは? 森の小道を抜けて二つの家を行き来する少女たちの小さな世界が、『燃ゆる女の肖像』でセザール賞撮影賞を受賞したクレア・マトンの映像と、シアマ監督が仕掛けたいくつもの“奇跡”によって、時空をも超える壮大な物語へと変わる特別な瞬間を体感!胸が震えるほどの深い余韻を約束する唯一無二の傑作がここに誕生した。

ストーリー

最愛の人を失った8才のネリーは森の中で少女と出会う。それは“8才のママ”だった──8才のネリーは両親と共に、森の中にぽつんと佇む祖母の家を訪れる。大好きなおばあちゃんが亡くなったので、母が少女時代を過ごしたこの家を、片付けることになったのだ。だが、何を見ても思い出に胸をしめつけられる母は、一人どこかへ出て行ってしまう。残されたネリーは、かつて母が遊んだ森を探索するうちに、自分と同じ年の少女と出会う。母の名前「マリオン」を名乗るその少女の家に招かれると、そこは“おばあちゃんの家”だった──。

作品レビュー

静かに、ミステリアスに物語は始まる。主人公は8歳の少女ネリーだが、年齢よりもどこか大人びた空気をまとっている。祖母の死という、深い悲しみの場面からストーリーが始まるせいだろうか。

おそらく郊外か、あるいは地方の田舎にあるらしき亡き祖母の一軒家の後片付けへ、ネリーたち家族は出向くが、その家で過ごすうちに不思議な出来事が起こる。

祖母の家の近所でネリーは同じ年ごろの少女マリオンに出会うのだが、初めて会ったこのふたりは瓜二つと呼べるほど顔も背格好もそっくりである。

何気なく言葉を交わし、ネリーとマリオンは遊び始め、雨が降るとマリオンの家へ駆け込み雨宿りしながらふたりは過ごす。すぐに仲良くなるふたりの少女は見ているだけで心が和む。それぞれが悩みを抱えてもいるが、互いに励まし合う少女たちの優しさや思いやりに心癒される。

ネリーはマリオンの奇妙な背景にすぐ気付くのだが、それでも静かにふたりの友情を育むことを選ぶ。その冷静さ、状況をそのまま受け入れる子供らしい懐の大きさ、物怖じしないところにネリーの芯の強さがうかがえる。

ネリーとマリオンが一緒に遊ぶさまはひたすら愛らしく微笑ましいが、どこかおませでユーモラスでもある。

ふたりでメロドラマの脚本を演じる際もコミカルで、お話の出来も良く、互いの演技を褒め称え意気投合するシーンも可愛らしい。この少女たちの交流をいつまでも眺めていたい気分にさせられる。

それぞれの家族に出会うシーンや、子ども達だけでクレープを作る場面も、日本だといろいろ違うだろうな、という印象を受け、個々の自主性を重んじるフランスの文化を感じられる。

スタジオジブリ作品にインスパイアされたという本作品は、子ども達の描き方にリスペクトが感じられて心地よい。子どもとはむしろ、その親や大人たち以上に愛と包容力に満ちていて、すべてを許して受け止めるような健気さが表現されている。

優しさの詰まった物語に、静かな感動で心満たされる良作であった。

予告動画

『秘密の森の、その向こう』


監督・脚本:セリーヌ・シアマ 『燃ゆる女の肖像』
出演:ジョセフィーヌ・サンス、ガブリエル・サンス、ニナ・ミュリス、マルゴ・アバスカル
原題:Petite Maman/2021/フランス/5.1chデジタル/ビスタ/73分/
公式サイト
© 2021 Lilies Films / France 3 Cinéma

 

投稿者プロフィール

Kana
フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。
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