誰もが「あの頃の気持ち」を思い出す……
ポール・トーマス・アンダーソン監督最新作!
『マグノリア』でベルリン国際映画祭金熊賞、『パンチドランク・ラブ』でカンヌ、『ザ・マスター』でヴェネチア、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でベルリンと世界三大映画祭すべてで監督賞を受賞し、常に世界中の映画ファンが新作を心待ちにしている天才監督ポール・トーマス・アンダーソン。その最新作が本作『リコリス・ピザ』だ。オリジナル脚本の完成度の高さ、登場する細かな脇役に至るまで行き届いた演出が高く評価されている。
主演は三姉妹バンド・ハイムのメンバーであるアラナ・ハイムとポール・トーマス・アンダーソン監督の盟友フィリップ・シーモア・ホフマンの息子であるクーパー・ホフマン。ともに本作で鮮烈な映画デビューを飾り、主演女優賞やブレイクスルー賞を総なめに。そのほか、11月の全米公開から現在に至るまで全米の映画賞を席巻している。共演にショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディと各界のレジェンドが集結しているのも見逃せない。また、ふたりの感情に寄り添う音楽を手掛けたのはレディオ・ヘッドのジョニー・グリーンウッド。ポール・トーマス・アンダーソン監督とは本作で5作品目のタッグとなる。
散りばめられた当時の音楽やファッション、そして恋の痛みと嬉しさに溢れる主人公たちの姿に、誰もが映画の楽しさを思い出さずにいられない!
舞台は1970年代のロサンゼルス、サンフェルナンド・バレー。実在の人物や出来事を背景にアラナ(アラナ・ハイム)とゲイリー(クーパー・ホフマン)が偶然に出会ったことから、歩み寄りすれ違っていく恋模様を描き出す。
日本人である自分にも懐かしさを覚える映像はなぜだろう。1970年代アメリカ、ハリウッド近郊のサンフェルナンド・バレーという街が舞台となっている。
昔のアメリカを知っているはずもないのに、かつて映画で観ていたような雰囲気が感じられるせいか、登場人物達の当時のファッションの再現や、計算しつくされた演出のためか。
生徒の写真撮影のために高校を訪れていたカメラマンのアシスタントであるアラナに、高校生のゲイリーが一目ぼれをするところから物語は始まる。ゲイリーは15歳、アラナは25歳という設定である。
まだ少年とも呼べるような年齢の男の子が、まるで物怖じもせず大人の女性を口説きだす描写には違和感を覚えるのだが、このゲイリーには普通の少年とはかけ離れた背景があった。子役の芸能人としてすでにキャリアがあり、大人の出入りする高級そうな店にも常連のように行きつけている、まるで少年らしくはない高校生である。
この高校生ゲイリーを演じるのは、撮影時は17歳であったクーパー・ホフマンであるが、この作品が映画デビューであったことにも驚きである。何事にも明確に、明晰に堂々と話す様は体格のせいもあるが、まるで30~40歳代の紳士のようでもある。クーパー・ホフマンの父は俳優、母は衣装デザイナーという家系のためか、演じるキャラクターからも遠くないであろう特別な環境で育っていることを感じさせる。
ゲイリーから熱烈なアプローチを受けるヒロインのアラナを演じるのは、音楽バンドのメンバーであるアラナ・ハイムである。こちらもまた初の映画デビューとなり、女優ではなくミュージシャンであることも意外であったが、彼女もサンフェルナンド・バレー出身という背景もあるせいか、とても自然にアラナというキャラクターを演じているように見えた。
当初は年の差のせいもあってゲイリーを相手にしないアラナだが、さまざまなハプニングや縁もあって距離を縮めてゆくふたりが描かれる。
それぞれのエピソードが奇妙でかつ現実味もあり、シュールでありながら血の通った場面の数々にいつしか引き込まれる。随所に実在の人物のモデルとエピソードが散りばめられている点が、多くの人の共感を集めるのかもしれない。
ゲイリーもアラナも、互いを意識し合いながら、それぞれ別の異性たちと交流するさまもリアルである。彼らの青春模様にいつしか自分たちのそれを重ね合わせてしまうような、どこか懐かしく甘酸っぱい作品であった。
脚本・監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディ
配給:ビターズ・エンド、パルコ、ユニバーサル映画
上映時間: 134分
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