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『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』作品レビュー

  • 2022年1月20日

作品紹介

1959年に44歳の若さで死去したアメリカジャズ界の伝説的歌手ビリー・ホリデイを描いた伝記ドラマ。人種差別を告発する楽曲「奇妙な果実」を歌い続けたことで、FBIのターゲットとして追われていたエピソードに焦点を当て、短くも波乱に満ちた生涯を描き出す。

ストーリー

自由の国が禁じた歌――「奇妙な果実」。だが、それは音楽史上最も衝撃的な陰謀の始まりに過ぎなかった。不世出の天才シンガー、ビリー・ホリデイの知られざる真実を明かすサスペンス・エンターテインメント。

「ビリー・ホリデイを止めろ! 彼女の歌声が人々を惑わせる」。
1940年代、人種差別の撤廃を求める人々が、国に立ち向かった公民権運動の黎明期。アメリカ合衆国政府から、反乱の芽を叩きつぶすよう命じられたFBIは、絶大なる人気を誇る黒人ジャズ・シンガー、ビリー・ホリデイにターゲットを絞る。大ヒット曲「奇妙な果実」が運動を扇動すると危険視し、黒人の捜査官ジミー・フレッチャーをおとり捜査に送りこんだのだ。だが、逆境に立てば立つほど、ビリーの圧巻のステージパフォーマンスは輝きを増し、肌の色や身分の違いを越えて全ての人を魅了する。やがてジミーも彼女に心酔し始めた頃、FBIが仕掛けた罠、そしてその先に待つ陰謀とは──?

作品レビュー

冒頭に流れる字幕の文章に冷や水を浴びせられたような心地になる。かつて、アメリカの上院で審議され通らなかった法案について書かれていたが、人種差別をめぐる非情な現実に衝撃を受けた。
本作はジャズ・シンガーである黒人女性、ビリー・ホリディの生涯を描いたものである。彼女のヒットソングであり、魂の叫びとも呼べるような「奇妙な果実」という歌をめぐり、ビリーは政府から圧力をかけられていた。白人によるリンチを受けて殺され、木に吊るされた黒人の死体を表現した歌だからだ。

物議をかもしながらも圧力に屈することのないビリーは気高い英雄のように映る。そんな気丈な彼女に対し、快く思わない連中の執拗で度重なる攻撃にビリーの人生は何度も踏みにじられてしまう。

ビリーの子供時代、実母は売春で身を立てており、父親には認知もされていなかったという。幼少の頃から過酷な環境で育ってきた彼女は歌うことで自身が輝くすべを見つけたに違いない。しかし他の点では彼女は非常に不器用だったのではないだろうか。彼女を食い物にする男たちが後を絶たず、稼ぎを奪われるだけではなく、薬物常習へと陥ってゆくのである。

人種差別主義の政府関係者につけ狙われ、日常的にも理不尽な差別や嫌がらせに加え、身内の暴力すら隣り合わせの日々である。シンガーとしてキャリアを築きながらも、彼女を取り巻く人間や環境は、結局は過酷で容赦ないものであったのだろうか。

常にハードモードの波乱万丈な生涯のように映るが、心癒されるような恋の場面もあり、ラブストーリーとしても描かれている。多くの人間が彼女を愛したに違いないのだろう。

44歳の若さで亡くなった彼女は、体はドラッグと病魔に蝕まれ、心身ともに疲弊しきっていたかもしれない。

それでも年齢こそ若かったが、彼女の生きてきた世界は過酷ながらも濃密で、魂を存分に輝かせた栄光の時間も多くあったに違いない。

その点で普通の人の何十倍も、何百倍も激しく生きたと言えるのではないだろうか。

ラストに流れる、ある法案に関するエピソードを読み、再び衝撃を受ける。

人種差別を取り巻く世界は変化したように見えておそらくそうではない。戦い表現し続けなければならない時代がまだ続いている。

予告動画

『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』


キャスト: アンドラ・デイ、トレヴァンテ・ローズ『ムーンライト』、ギャレット・ヘドランド『オン・ザ・ロード』 レスリー・ジョーダン『ヘルプ ~心がつなぐストーリー』
監督: リー・ダニエルズ『大統領の執事の涙』『プレシャス』
2021年製作
上映時間: 131分
R15+
原題:The United States vs. Billie Holiday
配給:ギャガ
公式サイト

©2021 Billie Holiday Films, LLC. All rights reserved.

投稿者プロフィール

Kana
フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。
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