アカデミー賞ショートリストにも残った主題歌「Glasgow (No Place Like Home)」〈「グラスゴー(どこより故郷が一番)」〉が、ハリウッド批評家協会賞受賞をはじめ、賞レースで音楽賞を席巻。誰もが「グラスゴー」を自分の故郷に変えて、思いを馳せることのできる歌詞に、深い共感が集まっている。またナショナル・ボード・オブ・レビュー<インディペンデント映画TOP10>を始めとする世界中のインディペンデント映画賞で作品賞・主演女優賞を受賞。Rotten Tomatoesでは92%FRESHと高評価を獲得。
ローズ=リン・ハーラン 23歳
保護観察中でシングルマザー そして歌手
これは、不器用で時に家族を傷つけてしまう彼女が
本当の居場所を見つけるまでの物語
スコットランド・グラスゴー。23歳のローズ=リン・ハーランは軽犯罪で刑務所に入れられ、10歳にも満たない幼い姉弟を抱えたシングルマザーだが、夢を諦めていない。それはアメリカのナッシュビルで歌手として成功すること。若さと才能のピークを迎え焦燥感にかられるローズは、夢を優先し時に家族を傷つけてしまう。
「なぜここに生まれてしまったのか」 これは現在地からの“脱出”を目指し、時に愛する家族を傷つけてしまうローズが、本当の居場所を見つけるまでの物語。
ラスト5分、彼女の歌声にきっとあなたは涙する。
主人公のシングルマザー、ローズ・リンにまったく共感できないところからストーリーは始まった。
ルックスこそ可愛らしいが、ムショ帰りで、暴力的で、理不尽にキレる破天荒なヒロイン。しかも母親とは・・・子供も親も気の毒に映る。ゴロツキでろくでなしで浅はかで・・・眉をひそめるレベルのキャラクター像であるが、きっとここから良い方向に向かっていくのだろう、この主人公のどうしようもなさは前フリなのだろうと淡い期待を抱いた。
さしあたり裕福な家の家政婦の仕事をゲットするが、その働きぶりも不真面目きわまりなく・・・面接に通った時点で驚きだが、脈絡もなく雇い主へ大金を無心する始末。その時点でクビになりそうなものである。
そんなローズ・リンの夢は歌手になること。ひとたび歌い出せば彼女はたちまち輝き出す。カントリーミュージックというジャンルにまるで馴染みのない私も、彼女の歌、曲調は心地よく、とりわけ歌詞には引き込まれた。映画全編を通して、登場人物の気持ちや背景にぴったりの歌が披露されるところにも注目である。
雇い主のスザンナやその子供達は良い人々で、ローズ・リンを応援し背中を押す。スザンナやその夫も貧しい出身ながら、成り上がった人達で人間味がある。スザンナはローズ・リンを親身に支え、彼女は夢の扉を開いてゆく。
それでもローズ・リンには幾度も容赦ない困難が訪れる。彼女が母親で、シングルマザーであることも苦労が多く、家族を失望させることもよくあった。
素晴らしい才能に恵まれ、若い頃からのキャリアも十分でパフォーマンスも抜群、スター性も申し分ないというのに、一番身近な人からの理解とサポートを得るのは困難であった。そんな中で、彼女は自身と向き合いながら成長してゆく。
夢か、家族か、と大ざっぱな選択劇と括るつもりはないが、このストーリーはむしろ家族の物語であるという印象を受けた。ローズ・リンのみならず彼女の母親もキーパーソンである。ローズ・リンの母親も自身と向き合い気付きを得てゆく。
ローズ・リンがとうとう夢の入り口までたどり着いた時に彼女が気付いたこと。
それを表現したラストシーンは素晴らしく感動的で、ただただ泣けてしまう。
冒頭の主人公に対するガッカリ感からは予想外の、愛とドラマに満ちた名作であった。
原題・英題
WILD ROSE
監督:トム・ハーパー 脚本:ニコール・テイラー
出演:ジェシー・バックリー 、ソフィー・オコネドー、ジュリー・ウォルターズ
2018/カラー/5.1ch/イギリス/スコープ/102分/原題:WILD ROSE/
©Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018