イザベル・ユペール主演で描く、儚くも美しき人生。ポルトガルの世界遺産シントラの町を舞台に、女優フランキーが仕組んだ<家族劇>とは――。
アイラ・サックス監督の前作に惚れ込んだイザベル・ユペールが自らラブコールを送り、それを受けた監督がユペールのために書き下ろした本作。脇を固めるのは、ブレンダン・グリーソン、マリサ・トメイ、ジェレミー・レニエ、グレッグ・キニアら豪華実力派俳優陣。彼らが演じる、フランキーのワケありな親族や友人が繰り広げる人間模様も見どころの一つだ。群像劇かのように見えていた物語の断片が、次第にパズルのように組み合わさり、やがて登場人物全員が初めて一堂に会して迎えるエンディング、私たちはその思わぬ感動に胸を打たれる。
本作のもう一つの主役と言えるのが、イギリスの詩人バイロン卿に「この世のエデン」と称されたポルトガルの世界遺産の町シントラ。フランキーがあてどなく彷徨う深い森、人生に迷う家族たちが往来する迷路のような路地、そしてユーラシア大陸の西の果ての広大な海に沈む燃えるような夕陽など、このうえなく神秘的で美しい世界が私たちを魅了する。
女優フランキーは、夏の終わりのバケーションと称し、ポルトガルの避暑地シントラに一族と親友を呼び寄せる。自らの死期を悟った彼女は、亡きあとも皆が問題なく暮らしていけるよう、段取りを整えようとしたのだ。しかし、それぞれに問題を抱えた家族たちは、次第にフランキーの思い描いていた筋書きから大きく外れていき――。
この映画の舞台となっているのはポルトガルのとある街、シントラ。首都リスボンからも近く、世界遺産に登録されているという。
ポルトガルという国も馴染みがなく、このような街の存在を今まで知らなかったが、一目でその景観に魅了されずにはいられない。バカンスを過ごすにはこの上なく理想的で、映画の舞台としてもこれ以上なく相応しい。
主人公はフランス人大女優、イザベル・ユペール演ずるフランキー。作品内でもヨーロッパの大女優という設定である。人物は基本的には英語で話しているが、時々フランス語のシーンが織り交ぜられている。むしろ全編フランス語の方が、この映画の雰囲気に合うのではと感じた。
イザベル・ユペールはすでに60代後半ながら、なんと美しく年を重ねた女性なのかと称賛に値する。不自然な若作りめいた痛々しさはまるで感じさせず、その佇まいは知的かつエレガントだ。ほっそりとしたスタイルに上品な色合いのファッションが映えており、その年代からイメージする女性たちとはかけ離れた女らしさが漂っている。
美しい異国の街で静かに繰り広げられるファミリードラマ。重い病に侵されたフランキーの、家族を思いやる真剣な気持ちは策略的ですらがあるが、彼女の思惑とは裏腹に、家族や友人の立場、思いが浮き彫りになってゆく。
おそらくフランキーはこれまで女帝のごとく、家族に対してふるまってきたのであろうと予測される。家族構成はなかなかの複雑さで、ファミリーメンバーである登場人物たちの背景が少しずつ明かされるが、どのキャラクターも一癖、二癖ありがちである。
誰もが過ごしてみたくなるような魅惑的な街を舞台に、さまざまな思いが交錯する。人生は時に容赦なく、ままならないのものであることを見せつけられるのは皮肉な印象でもある。
個人的には、生きているうちに一度は訪れてみたいと思えた街であった。
監督・脚本:アイラ・サックス『人生は小説よりも奇なり』
出演:イザベル・ユペール『エル ELLE』、ブレンダン・グリーソン『ロンドン、人生はじめます』、マリサ・トメイ『人生は小説よりも奇なり』、ジェレミー・レニエ『2重螺旋の恋人』、パスカル・グレゴリー『冬時間のパリ』、グレッグ・キニア『リトル・ミス・サンシャイン』
原題:FRANKIE
2019/フランス・ポルトガル/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1chデジタル/100分/G
配給:ギャガ
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