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芳根京子主演・近未来SF『Arc アーク』 作品レビュー

  • 2021年5月23日

作品紹介

原作の息をのむほど斬新な不老不死のシチュエーションと、行間に流れる死生観を引き継ぎながら、映像作品へと鮮やかに転生させたのは、海外からも熱い注目を浴びる石川慶監督。主人公・リナに扮するのは、『累 -かさね-』と『散り椿』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、新作『ファーストラヴ』では、その憑依したような熱演に堤幸彦監督から“涙の魔術師”と絶賛された芳根京子。
一人の女性の17歳から100歳以上を生き抜くという、キャリア史上最難関の役どころを繊細かつ大胆に演じきった。


その他、リナが勤めるエターニティ社の責任者エマに、寺島しのぶ。エマの弟で天才科学者である天音役に、岡田将生。さらに、物語の重要なカギを握る人物を、倍賞千恵子、風吹ジュン、小林薫という日本映画界の至宝である3人が演じ、その全身から滲み出る人間味でスクリーンに情感を与えた。人類にとって全てが初めてとなる不老不死の世界を描いた、驚愕と不思議(=センスオブワンダー)に彩られた壮大なるエンターテイメント作品が誕生した!

ストーリー

舞台はそう遠くない未来。17歳で人生に自由を求め、生まれたばかりの息子と別れて放浪生活を送っていたリナ(芳 根京子)は、19歳で師となるエマ(寺島しのぶ)と出会い、彼女の下で<ボディワークス>を作るという仕事に就く。

それは最愛の 存在を亡くした人々のために、遺体を生きていた姿のまま保存できるように施術(プラスティネーション)する仕事であった。エマ の弟・天音(岡田将生)はこの技術を発展させ、遂にストップエイジングによる「不老不死」を完成させる。リナはその施術を受けた 世界初の女性となり、30歳の身体のまま永遠の人生を生きていくことになるが・・・。

作品レビュー

不老不死の実現というテーマは、制作陣すべてにとって、非常にチャレンジングな題材であったと思われる。

主役リナを演じる芳根京子は20歳代前半ながら、17歳から89歳までを演じるという難題に対し、当初乗り気ではなかったという。まっとうなリアクションだと感じる。17歳や19歳という年代は経験済みであっても、まだ20代の彼女が幅広い年代を表現するのは難しく思われたに違いない。

現実的ではない舞台設定のため、他のベテラン俳優陣にとっても難しい挑戦であっただろう。それらの世界観へ挑み、スクリーン上で創り上げようとするスタッフの人々はみな情熱的で勇敢だと感じられる。

主役リナを芳根京子という若く美しい女性が演じることは、不老不死というテーマでは重要な要素であると思う。とはいえ見た目的にとても若い人が89歳になっていると言われても正直ピンとこなかった。19歳から30歳までの変化に関しては、見た目も含め、若く不安定な女の子から洗練された大人の女性に変貌する様が良かった。

フィクションながらも不老不死が実現した世界を垣間見るのは興味深い経験であり、いろいろ考えさせられる。そもそも人々が不老不死という状態を望むのか、そこは大きな疑問でもある。

物語の中ではそれを選ぶ人と、選ばない、または選ぶことのできない人々、それぞれの選択が描かれる。不老不死を得た女性と、その先にあるものは・・・?というミステリー要素も人々の興味を惹く部分かと思われる。

題材も異世界感覚ながら、映画全体としては非常にアーティスティックで詩的な雰囲気が醸し出されている。物語の後半に描かれる小豆島を舞台としたモノクロの映像も特別な世界観が表現され、制作側のこだわりが随所に詰め込まれた、きわめて芸術性の高い作品であった。

予告動画

『Arc アーク』

キャスト: 芳根京子、寺島しのぶ、岡田将生、清水くるみ、井之脇海、中川翼、中村ゆり/倍賞千恵子/風吹ジュン、小林薫
原作:ケン・リュウ『円弧(アーク)』(ハヤカワ文庫刊 『もののあはれ ケン・リュウ短篇傑作集2』より)
脚本:石川慶 澤井香織
音楽:世武裕子
監督・編集:石川慶
配給:ワーナー・ブラザース映画
2021年/日本/127分/スコープサイズ/5.1ch
製作:2021映画『Arc』製作委員会
製作プロダクション:バンダイナムコアーツ
公式サイト

©2021映画『Arc』製作委員会

投稿者プロフィール

Kana
フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。
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