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ミュージカルを超えた<プレイリスト・ムービー>【WAVES/ウェイブス】

  • 2020年4月2日

作品紹介

『ムーンライト』(16)、『レディ・バード』(17)、『ヘレディタリー/継承』(18)など次々と話題作を発表し てハリウッドに新風を吹き込む映画制作会社、A24。その作品はどれも個性的で、同時にアカデミー賞にノミ ネートされるほどのポテンシャルを持つ精鋭揃い。今やアメリカ映画界の最前線に立つ存在になった A24 が放 つ最新作。トロント国際映画祭で『パラサイト』『ジョジョ・ラビット』などアカデミー賞を争う注目作が上映される中、同映画祭始まって以来、最長のスタンディングオベーションを浴び、「一生に一度の傑作」「今年、最もまばゆい体験」と一躍話題となる。
主役とも呼べるのは、今の音楽シーンをリードする豪華アーティスト達が手掛ける31の名曲。トレイ・エド ワード・シュルツ監督が事前に本編に使用する楽曲のプレイリストを作成し、そこから脚本を着想し製作。
監督自身が“ある意味でミュージカルのような作品”と語るように、全ての曲が登場人物の個性や感情に寄り添うように使用され、時には音楽がセリフの代わりに登場人物の心の声を伝える。 ミュージカルを超えた<プレイリスト・ムービー>の誕生!

ある夜を境に、幸せな日常を失った兄と妹。傷ついた若者たちが、再び愛を信じて生きる希望の物語。 スクリーンいっぱいに躍動するサウンド、息を呑むほど美しい色彩と独創的なカメラワーク、登場人物の心情を疑似体験するストーリーテリングは、いまだかつてない映画体験をもたらし、映画の持つ無限の可能性を感じさせる。
誰もが体験する青春の挫折、恋人との別れと出会い、親子の確執、家族の絆、そしてすべての傷を癒す愛といったさまざまなテーマを、実験的かつ現代的な手法で鮮烈に描く。

ストーリー

傷ついた今日も、癒えない傷も、愛の波が洗い流すー 高校生タイラーは、成績優秀なレスリング部のエリート選手、美しい恋人アレクシスもいる。厳格な父親ロナルドとの間に距離を感じながらも、恵まれた家庭に育ち、何不自由のない生活を送っていた。
そんなある日、不運にも肩の負傷が発覚し、医師から選手生命の危機を告げられる。そして追い打ちをかけるかのように、恋人の妊娠が判明。徐々に狂い始めた人生の歯車に翻弄され、自分を見失っていく。そしてある夜、タイラーと家族の運命を変える決定的な悲劇が起こる。
一年後、心を閉ざして過ごす妹エミリーの前に、すべての事情を知りつつ好意を寄せるルークが現れる。ルークの不器用な優しさに触れ、 次第に心を開くエミリー。やがて二人は恋に落ちるが、ルークも同じように心に大きな傷を抱えていた。そして二人はお互いの未来のために ある行動に出る・・・。

作品レビュー

激動に見舞われたある一家を描いた物語で、全編を通して愛のメッセージに溢れている。

ティーンエイジャーの兄妹を中心にストーリーは展開され、前半は兄のタイラー、後半は妹のエミリーの目線で物語が進んでゆく。

大人しく心優しい妹エミリーは、家族の中でも目立たない存在である。前半では彼女の存在感は薄いのだが、それは巧みな伏線でもある。

まだ高校生の、うら若く、幼いとすら言える年齢の彼女は要所要所であたかも聖女のように映る。エミリー役のテイラー・ラッセルの演技に心震わせられる。

物語には重く痛々しいシーンもありながら、悲しみや理不尽さに直面した人々が、どのように問題と向き合い乗り越えてゆけるのか、丁寧に描かれている。それぞれのシーンで絶妙に、場面とマッチした歌詞の音楽で彩られるのも見どころである。

絶望、怒り、悲しみといったネガティブな感情を、孤独に抱えているだけでは誰も救われない。辛い出来事も気持ちも、つながり分かち合う誰かがいたなら少しずつ癒されるものかもしれない。

後半、娘エミリーと父親が語り合うシーンは秀逸で、涙なくして見ることはできない。心を打ち明け気持ちをさらけ出すことは、どんなに親しい間柄でも、家族間であろうとも決して簡単なことではない。それでもなりふり構わず思いを吐露して愛に立ち返るさまは、この作品の中で最も表現したい場面だったのではないだろうか。

家族の心がバラバラになりそうな時も、一番若く幼いエミリーがまず愛を実践する姿に心を打ちぬかれる。愛に基づいた行動は力強く人の心動かし、他人の愛も呼び覚ましてゆくのである。

ストーリーはかなり現代的でもあるが、随所に教会のシーンや聖書の言葉がちりばめられ心に響く。愛と許し、家族の絆や恋愛といった普遍的なテーマが存分に描かれた感動的な作品となっている。

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監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ(『イット・カムズ・アット・ナイト』)
出演:ケルヴィン・ハリソン・Jr、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミー
音楽:トレント・レズナー&アッティカス・ロス (『ソーシャル・ネットワーク』、『ゴーン・ガール』)
原題:WAVES /2019 年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/135 分/PG12
©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

投稿者プロフィール

Kana
フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。
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