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衝撃のフランス映画『レ・ミゼラブル』作品レビュー

  • 2020年3月3日

作品紹介

「レ・ミゼラブル」の舞台となった街で、今なお繰り返される悲劇の連鎖。
現代社会の闇をリアルに描く、衝撃の問題作!!

世界各地で暴動やデモが頻発している昨今、もはや日本も他人事ではいられない時代を迎えている。“引き金”となるのは、人々のなかに生まれる社会や政治に対する鬱屈した感情。そんな現代が抱える闇をリアルに描き、まさに「世界の縮図」ともいえる衝撃作が誕生した。海外主要メディアからの高い評価を引っ提げて、ついに日本での公開を迎える。

犯罪防止班に新たに配属された警官のステファンと同僚たちが、ある少年の引き起こした些細な事件をきっかけに、やがて取り返しのつかない事態へと陥っていく様を、緊張感あふれる描写で描いた本作。第72回カンヌ国際映画祭でセンセーションを巻き起こすと、「コンペ最大のショック!」「クロワゼットを震撼させた未確認物体!」と称賛を受け、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』と並んでパルムドールを競い、審査員賞に輝いた。各国の映画祭でも数々の賞を獲得し、第92回アカデミー賞®国際長編映画賞(旧名称:外国語映画賞)ではフランス代表にも選出、ゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞にもノミネートされている。

舞台となるのは、ヴィクトル・ユゴーの傑作「レ・ミゼラブル」で知られているモンフェルメイユ。現在は、パリ郊外の犯罪多発地区の一部とされており、我々が思い描く“花の都”パリのイメージはそこには存在しない。あるのは、権力者によって抑圧されている弱者と社会で居場所を失った人々の姿。まさに、“ミゼラブル(悲惨)”な世界の現状を反映しているといえる。

監督・脚本を務めたのは、本作が初長編作品となる、フランスの新鋭ラジ・リ監督。モンフェルメイユで生まれ育ち、現在もその地に暮らす監督自身の体験を基に、現代社会に潜む問題を圧倒的な緊迫感とスタイリッシュな映像で見事に描き切っている。スパイク・リーもアメリカにおけるプロモーションのサポートを買って出るほどその才能を認めており、今後の映画界において目が離せない存在となることは間違いないだろう。さらに、アーティストとしての一面も持っており、ストリート・アーティストJRと共同でプロジェクトを発表するなど、活躍の場は幅広い。

2019年11月20日に本国フランスでの公開を迎えた本作は、初日動員数7万人を超え、週末ランキングは『アナと雪の女王2』に次ぐ、第2位となる大ヒットスタートを記録。また、フランスのマクロン大統領も、本作を鑑賞。自国が抱える問題をリアルに描いた本作に反応し、政府に「映画の舞台となった地域の生活条件を改善するためのアイデアを直ちに見つけて行動を起こす」よう求めたという。

ラスト30分の緊迫感。そして衝撃のラストシーンは、私たちに何を問いかけるのか!?もはや、他人事と傍観していることはできない……。

ストーリー

パリ郊外に位置するモンフェルメイユ。ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもあるこの街は、いまや移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していた。犯罪防止班に新しく加わることになった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。そんなある日、イッサという名の少年が引き起こした些細な出来事が大きな騒動へと発展。事件解決へと奮闘するステファンたちだが、事態は取り返しのつかない方向へと進み始めることに……。

作品レビュー

レ・ミゼラブルといえば、てっきりミュージカル作品がリメイクされたフランスバージョンかと思っていた。以前鑑賞したのはヒュー・ジャックマンやアン・ハサウェイが出演しており豪華キャストながらも、救いようのないストーリーに気分が滅入ってしまった。

今作品は現代のパリ郊外、モンフェルメイユが舞台となっている。この地名に聞き覚えはなかったが、ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台であり、今では移民や低所得者たちが多く済む犯罪地域なのだという。いわくつきのエリアというわけだ。

市長というキャラクターが出てくるのだが、我々がなんとなく考えている“市長”のイメージを軽やかに覆してくる。やけにガラが悪く、チンピラかゴロツキあがりのようにしか見えない・・・もしかすると、「市長」というあだ名だったりするのだろうかと疑わしくも感じたが、その割には警察官達にも一目置かれながらやりとりをするので、おそらく本当に市長らしい。このエリアのカラーをよく表しているようにも感じる。

新しく赴任してきた警察官の目線でストーリーは進むが、この地域の持つ独特の雰囲気、不穏な空気が伝わってくる。話が進むにつれて次第に緊張が高まってゆく。

中盤から後半へ進むほど激しい緊張に見舞われ引き込まれる。一触即発状態のなか、いったいこの物語はどう決着がつくのかと固唾をのんで見入っていた。終盤まで、まったく気を抜けない展開となる。

この映画のラストはなんとも意味深である。しかしながら、あのような場面で終わることに妙に納得させられもする、秀逸な終わり方をする。

この作品全体を通しての不穏で鬱屈した空気感は非常に生々しくリアルだ。なんとも言えない気持ちになりながら公式HPをチェックすると、この物語のエピソードはすべて事実に基づいており、監督自身がこの犯罪多発地域の出身で、現在も在住であるという。

この地で育った監督ラジ・リ氏だからこそ撮ることのできた、地域の本当の姿なのだと思わせられた。本作を鑑賞したマクロン大統領も心動かされずにはいられなかったという、非常にメッセージ性の強い作品となっている。

『レ・ミゼラブル』予告動画

『レ・ミゼラブル』

監督:ラジ・リ
キャスト: ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、ジャンヌ・バリバール
2019年/フランス/フランス語/104分/カラー/シネスコ/5.1ch
配給: 東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
原題: Les Misérables
公式サイト

© SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

投稿者プロフィール

Kana
フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。
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