夫との別れ、新たな出会い、子供たちの成長・・・
訪れる変化を乗り越え、導かれた答えとは。
1981年、「Changement et Espoir(変革と希望)」を掲げた社会党のミッテラン氏が大統領に当選。1989年、隣国ドイツのベルリンの壁崩壊とともに幕を閉じたこの10年は、その自由で活発な風潮からフランスにとって政治だけでなく、芸術的にも転換点といえる時期を映し出す物語。
1981年、パリ。結婚生活が終わりを迎え、ひとりで子供たちを養うことになったエリザベートは、深夜放送のラジオ番組の仕事に就くことに。そこで出会った少女、タルラは家出をして外で寝泊まりしているという。彼女を自宅へ招き入れたエリザベートは、ともに暮らすなかで自身の境遇を悲観していたこれまでを見つめ直していく。同時に、ティーンエイジャーの息子マチアスもまた、タルラの登場に心が揺らいでいて…。
訪れる様々な変化を乗り越え、成長していく家族の過ごした月日が、希望と変革のムード溢れる80年代のパリとともに優しく描かれる。
まともな社会経験もない妻が、年頃の子どもふたりと共に、ある日を境に夫に捨てられる。夫は他の女性と暮らすために家を去り、置き去りにされた主人公エリザベートは悲観的な状況に涙する日々・・・
暗いオープニングではあるが、エリザベートはなかなか恵まれた境遇でもあると感じた。展望美しく広さも十分であろう高層マンションを夫は残してゆき、その代わり養育費はナシのようだ。
エリザベートの実父はいつでも娘と孫たちのために力になろうとスタンバイしており、第二の人生へのサポート体制は悪くはなさそうである。
エリザベートはどちらかと言えば苦労知らずのぬるま湯に浸かってきた女性なのではという印象も抱くが、主演のシャルロット・ゲンズブールの外見は幸薄げなイメージがある。悩みは尽きず、いつもけだるそうな雰囲気を醸し出し、生活に疲れた中年女性という役柄が多い気がする。
エリザベートは不器用なりに、できることを始めようとなんとか動き出してゆく。一生懸命に人生にぶつかってゆく彼女を見ている人達がいて、作品の中に漂う空気は温かみが感じられる。エリザベート自身も不遇の状況にある少女タルラと出会い、助けようとする芯の強さを持ち合わせている。彼女自身が愛に恵まれて生きてきたからこそ、見ず知らずの他人へ手を差し伸べられるのだと思う。
ストーリーを通して感じられるのは、心折れそうな状況であっても新しい人々と出会い、新しい自分に出会えるのだという前向きなメッセージである。予期しなかった状況の渦中にある時は辛いけれど、それでも前に進んで行ける、明るい道を切り開いてゆけるのだとエリザベートの人生を通して表現しているように映る。
日常の中に起こり得る悩みや困難、家族や子どもに関わる心配事など、誰にとっても身近なテーマがリアルに描かれつつ、それぞれの成長や旅立ちがタイトルにある夜明けに象徴されるかのようである。
いま苦しい人も、かつて辛かった時期を乗り越えた人も共感できるのではないだろうか。元気と勇気をもらえる、すべての人にエールを送ってくれるような作品である。
監督・脚本:ミカエル・アース(『アマンダと僕』)
出演:シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、ノエ・アビタ、メーガン・ノータム、エマニュエル・ベアール
2022年/フランス/カラー/111分/R15/ビスタ/原題:LES PASSAGERS DE LA NUIT
配給:ビターズ・エンド
公式サイト
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