本作は、ギリシャ最大のテッサロニキ国際映画祭でギリシャ国営放送協会賞、青年審査員賞、国際映画批評家連盟賞の三冠に輝き、世界中の映画祭から喝采を浴びた感動の物語。
寡黙なニコスはアテネで36年間、高級スーツの仕立て屋店を父と営んできた。だが不況がギリシャを襲うなか、店は銀行に差し押さえられ、ショックで父は倒れてしまう。途方に暮れたニコスは、なんと手作り屋台で、移動式の仕立て屋を始めることを思いつく。だが店を飛び出してはみたものの、道端で高級スーツは全く売れず、商売は傾く一方。そんなある日、思いがけないオファーを受ける。「ウェディングドレスは作れる?」。これまで紳士服一筋だったニコスだったが、思い切って人生初めてのウェディングドレス作りに挑むことに!隣人の母子に手伝ってもらい、ニコスは女性服の仕立てを学び始める。そして青空の下、オーダーメイドのドレス作りを始めるが―!?
ギリシャ映画を観たのは初めてだったかもしれない。こちらの作品は多数の国際的な賞を受賞しており、期待が高まってしまう。
オーダースーツの仕立て屋という職業は、ギリシャに限らず現代において難しい商売と思われる。主人公は若かりし頃から実直にキャリアを積み重ねた50歳のニコス。長年父親と共に店を営んできた内向的な独身男性である。
商売は斜陽ぎみ、店は銀行から差し押さえられ、父親は倒れてしまう。危機の中からニコスの奮闘が始まる。彼なりの新しいスタイルで商売に挑んでゆく姿は果敢でもある。
ご近所さんは同年代らしい美人のオルガ。彼女の娘ヴィクトリアは、元気いっぱいで可愛らしく、ニコスになついている。彼女たちは母子家庭で、恋の予感・・・?と思いきや、オルガにはいかつい旦那さんがいる。それでも、ふたりは果たして・・・?大人の男女の関係のゆくえも見どころである。
ギリシャの街の風景や人々の文化の描写は興味深い。仕立てたドレスや服を売るのも交渉制で、注文した時点で価格が決まっていないのにもびっくりする。価格も値切られまくりで安く、大丈夫なのかと思ってしまう。ギリシャの物価はヨーロッパ内では安い方かもしれないが、オーダーメイドのウェディングドレスが400ユーロとか200ユーロで取引されるのは驚愕だった。
個人的には、市場の魚屋のおじさんがすごくイケメンで動揺した。ほんのチョイ役なのに、むやみにセクシー系でいい男オーラがすごかった。無駄にかっこ良すぎではなかろうか。あんな魚屋さんがいたら毎日通いたくなってしまう。自分的には魚屋のおじさんが推しポイントのひとつである。
魚屋さんにうつつを抜かし気味にもなるが、主人公ニコスの変化がこの映画の最たる見どころである。地味で内気で引きこもり気味に生きてきた彼の、50歳にして変化へと体当たりするチャレンジの日々。人生の仕立て屋というサブタイトルは、主人公を絶妙に表しており巧みである。
すんなりとはいかなくとも、変化を恐れず挑戦する姿は健気でたくましく人に勇気を与えるものではないだろうか。人はいつでも新しく人生を仕立て直せるのかもしれない。そんな風に思わせてくれる良作であった。
監督・脚本:ソニア・リザ・ケンターマン
出演:ディミトリス・イメロス、タミラ・クリエヴァ
2020年/ギリシャ・ドイツ・ベルギー/ギリシャ語・ロシア語/
上映時間: 101分
英題:Tailor
後援:駐日ギリシャ大使館
配給:松竹
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