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細田守の新作『竜とそばかすの姫』作品レビュー

  • 2021年7月15日


作品紹介

青春、家族の絆、親子愛、種族を超えた友情、命の連鎖…。
様々な作品テーマで日本のみならず世界中の観客を魅了し続けるアニメーション映画監督・細田守。
最新作『竜とそばかすの姫』では、かつて『サマーウォーズ』で描いたインターネット世界を舞台に、『時をかける少女』以来となる10代の女子高校生をヒロインに迎えた。そこで紡ぎ出すのは、母親の死により心に大きな傷を抱えた主人公が、もうひとつの現実“と呼ばれる50億人が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>で大切な存在を見つけ、悩み葛藤しながらも懸命に未来へ歩いていこうとする勇気と希望の物語だ。現実世界と仮想世界。2つの世界、2つのアニメーション。細田作品ならではのリアル×ファンタジーの絶妙なマリアージュと、かつてない圧倒的スケールの物語を実現させるため、スタッフキャストチームには、役者、音楽、デザイン、アニメーション、CGなど各ジャンルから多様性溢れる才能が奇跡の集結。

圧倒的な速度であらゆるものが変化し続ける時代、それでもずっと変わることのない大切なものとは―。
スタジオ地図が10周年を迎える2021年夏。
想像を超えたアニメーション映画“未開の境地”へ、細田守最新作『竜とそばかすの姫』が、ついに辿り着く。

ストーリー

50億人がすれ違う
美しくも残酷な仮想世界。
ベルの歌声は世界を変える――

自然豊かな高知の村に住む17歳の女子高校生・すずは、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。
母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。

曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。

数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。
やがて世界中で巻き起こる、竜の正体探し(アンベイル)。

<U>の秩序を乱すものとして、正義を名乗るAsたちは竜を執拗に追いかけ始める。<U>と現実世界の双方で誹謗中傷があふれ、竜を二つの世界から排除しようという動きが加速する中、ベルは竜を探し出しその心を救いたいと願うが――。
現実世界の片隅に生きるすずの声は、たった一人の「誰か」に届くのか。
二つの世界がひとつになる時、奇跡が生まれる。
もうひとつの現実。もうひとりの自分。もう、ひとりじゃない。

作品レビュー

インターネット上の世界で別の自分になるという経験を、現代では多くの人がすでに経験しているかもしれない。

SNSで自分の生活の一部を発信するのは現実の延長という感もあるが、スクリーン上でアバターを作成したり、別の名前になって動くことは、リアルとは異なる新しい世界の自分になれるのだろう。

現実世界では地味で内気な女子高生が、仮想世界の中では大スター的な存在になるというストーリーは、現代においてはイメージしやすいかもしない。

冒頭から、仮想世界について詳しい案内があり、設定や物語に入りやすい工夫もされている。私はゲームに詳しくないが、オンラインのバトルゲーム等で現実の自分とは異なるキャラクターと名前で日々参戦し、仲間との絆を深めている人々もいるようだ。かつての「2ちゃんねる」または「5ちゃんねる」等も国内での大きな仮想世界のひとつだろう。そのような方にはわかりやすい世界かもしれない。

主人公の女子高生すずは過去に大きなトラウマを抱え、作曲や歌の才能に恵まれながらも歌えずにいたが、仮想世界<U>ではベルという名前と美しい容姿で存分に歌うことができた。もしかすると、現実世界よりもネットの世界の方が生きやすく自分を発揮できる人達も今の世では多くいるのかもしれない。

ベルは仮想世界<U>で出会った孤独で攻撃的な「竜」に次第に惹かれてゆく。このストーリーは「美女と野獣」をモチーフにしたようである。すずが「ベル」という名前なのもわかりやすい。

すずと仮想世界の歌姫ベル役は京都出身のミュージシャン中村佳穂が演じている。この作品の要は何をおいても主人公の歌唱力に尽きると思うのだが、オーディションで選ばれたという彼女の歌声はキャラクターにぴったりで、人の心を打つ声の持ち主である。

誰もが正体を隠して活動する仮想世界において、物語は意外な方向へ進んでゆく。<U>でのベル、現実の少女すずの奮闘や成長に観る人は感情移入するのではないだろうか。

共感しやすい世界観で、真に大切なものとは何か、考えさせられる物語となっている。この夏はスクリーンで、キャラクターと心の旅をしてみてはいかがだろうか。思いがけず、新しい自分に出会えるかもしれない。

『竜とそばかすの姫』


【キャスト・スタッフ】
中村佳穂
成田 凌  染谷将太  玉城ティナ  幾田りら
森山良子  清水ミチコ  坂本冬美  岩崎良美  中尾幸世
森川智之  宮野真守  島本須美
役所広司 / 石黒 賢  ermhoi  HANA / 佐藤健
メインテーマ: millennium parade × Belle 『U』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
監督・脚本・原作: 細田守
上映時間:121分
公式サイト
©2021 スタジオ地図

投稿者プロフィール

Kana
フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。
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