『最強のふたり』で世界を笑いと涙で元気にしたエリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ監督が“今”を生きる私たちにエールを送る、待望の最新作。本国フランスで公開されるや否や、熱い支持を受け動員数200万人を突破。スペインのサンセバスチャン国際映画祭では過去最高得点で観客賞に輝き、セザール賞では9部門にノミネートされ、ヨーロッパ各国で熱狂的に愛された傑作だ。
本作の主人公も『最強のふたり』と同じく、実在するふたりの男たちがモデル。1994年に自閉症の子供たちやドロップアウトした若者の社会参加を支援する団体と出会ったナカシュとトレダノは、携わる人々から湧き出る活力やにじみ出る人間らしさに深く感動した。当時まだ駆け出し監督だった二人は必ず彼らを映画化すると心に誓い、約25年の時を経てようやく実現に漕ぎつけた。ナカシュは「この出会いがきっかけで、僕らのハンディキャップやノーマライゼーションに対する関心は強くなっていった。そこから『最強のふたり』も生まれたんだ。」と語っている。
主演には『ジェイソン・ボーン』(16)や『ブラック・スワン』(10)などハリウッド映画でも活躍するフランス映画界きっての演技派俳優ヴァンサン・カッセル。ギャングや犯罪者など強面の印象の強いカッセルだが、本作では政府や社会から理解を得るため見返りを求めず奮闘するケア施設の代表を見事に演じきった。共演にはジャック・オーディアールやヴィム・ヴェンダースの作品で活躍するレダ・カテブ。そして当事者の日常や問題に寄り添うような演出を目指した監督は、本物の介護者と自閉症の若者、その家族らを多数キャスティングしている。
「なぜ、そこまでして他人のために奔走するのか?」という問いに答える数々のエピソードは、人と人のつながりが分断され、様々な価値観が再構築されようとしているこの時代において、我々の胸に優しい衝動を呼び覚ましてくれる。
ブリュノは今日も朝から大忙し。自閉症児をケアする施設〈正義の声〉を経営しているのだが、どんな問題を抱えていても断らないために、各所で見放された子供たちでいっぱいなのだ。〈正義の声〉で働くのは、ブリュノの友人のマリクに教育されたドロップアウトした若者たち。どこから見てもコワモテのふたりだが、社会からはじかれた子供たちを、まとめて救おうとしているのだ。その成果は現れ、最悪の問題児だったディランと、最も重症のヴァランタンの間に、絆が芽生えようとしていた。だが、無認可・赤字経営の〈正義の声〉に監査が入ることになり、閉鎖の危機に迫られる。さらに、ディランが目を離した隙にヴァランタンが失踪するという事件が起き──。ヴァランタンはどこへ消えたのか? そして施設はこのまま閉鎖に追い込まれるのか? 救いの手が必要な子供たちの未来は──?
大ヒット作、「最強のふたり」の監督作品となれば期待値は自動的に高まってしまう。さすがと言うべきか、見始めてすぐに引き込まれずにはいられない。ドキュメンタリーのようにも感じられ、実話ベースの作品というものは確かな手堅さを感じさせる。
重度の自閉症の子供たちや、障害のある人達を受け入れ助けてきた施設の実情が描かれている。日々待ったなしのギリギリの状態で奮戦する施設長やスタッフたち。国や市からのまともな支援の手も差し伸べられないまま、無認可のまま15年以上運営されていたという。
内容は誇張なく描かれていると感じられる。施設で働く人々、施設で過ごす人々の日常は終わりのない悪夢のようにも映るし、非常にスリリングでドラマティックでもある。
無認可の施設、無資格のスタッフたち。運営、経営状態は苦しく給料を支払えるのかもわからない日々。それでも主人公のブリュノはすべて背負い込んで解決の道を模索し続ける。その姿は痛々しくも映る。
緊急事態の連続である日々は息をつく間もないだろう。ほぼ24時間体制で戦い続ける彼らにはプライベートの時間は残っていない。それでもささやかなロマンスの兆しや、居場所のなかった若者たちが、少しずつ成長してゆく姿も描かれる。
悪戦苦闘し、もがきつつも、障害ある子供や若者をを救おうとする様を映し出したこの作品の役割は大きいに違いない。支援もせず、欠点をあげつらって施設をつぶそうとする行政の非情さ、無関心さ、無責任さに憤りを覚える人も多いかもしれない。そんな逆風の中で苦しい戦いを繰り広げてきた者たちの苦労は広く社会に知らしめられるべきである。
作品の背景にある、事実に関連した人々の状況が改善されることを切に願ってしまう。映画とは、そのような力を持つものであることを信じたい。
オープニングから引き込まれ、主人公たちを応援したくなる。彼らに降りかかる難局の数々に憤慨を覚え、感情移入せずにはいられない。王道とも言える作品のひとつである。
出演:ヴァンサン・カッセル『ブラック・スワン』 レダ・カテブ『ゼロ・ダーク・サーティ』 、エレーヌ・ヴァンサン
監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ『最強のふたり』
制作:ニコラ・デュヴァル・アダソフスキ『最強のふたり』『スターリンの葬送狂騒曲』
2019年/フランス/114分/フランス語/カラー/シネスコ/字幕翻訳:丸山垂穂/G
原題:Hors Normes(英題:The Specials)
配給:ギャガ
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