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『パリに見出されたピアニスト』作品レビュー

  • 2019年10月23日

 

作品紹介

パリ、北駅。
すべてはその場所から始まった。
パリ郊外の団地に暮らすマチュー。
生い立ちに恵まれず、夢を持たずに生きてきたマチューには、
近所の仲間に決して明かせない秘密があった。

ストーリー

忙しなく人が行き交う、パリの主要ターミナル 北駅。
耳を澄ますと、喧騒の中に美しいピアノの音色が聴こえる。

ご自由に演奏を!

そう書かれたピアノに向かうのは、おおよそピアニストとは思えない、ラフな格好をした一人の青年だった。
彼の名はマチュー・マリンスキー。パリ郊外の団地で母親と妹、弟と暮らしている。
決して裕福とは言えない家庭で育ったマチューは、幼い頃にふとしたきっかけでピアノと出会い、誰にも内緒で練習していた。
クラシックは時代遅れだと思い、ラップを聴いている地元の仲間にバレたら、とんだお笑い草だ。
ある日、マチューが駅でピアノを弾いていると、その演奏に足を止めた男が一人。
パリの名門音楽学校コンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽院)でディレクターを務めるピエール・ゲイトナーだった。
マチューの才能に強く惹かれたピエールは、声をかけ名刺を渡すが、マチューは逃げるように去ってしまう。
その夜、仲間と盗みに入った家でグランドピアノを見つけたマチューは弾きたい衝動を抑えきれず、警察に捕まってしまう。
実刑を免れないと言われたマチューに手を差し伸べたのは、ピエールだった。
コンセルヴァトワールでの清掃の公益奉仕を条件に釈放されたマチューは、ピエールからもう一つ条件を言い渡される。
それは、女伯爵との異名を持つピアノ教師エリザベスのレッスンを受けることだった。
ピエールは、マチューをピアニストに育て上げる夢を持ったのだった。
望まないレッスンに、マチューは反抗的な態度。
エリザベスも匙を投げかけたが、ピエールの進退を賭しての熱意に動かされてレッスンを続けることに。
そして、ピエールは国際ピアノコンクールの学院代表にマチューを選ぶのだった。
課題曲はラフマニノフの「ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調」。
コンクールまで4か月。
3人の人生をかけた戦いが、いま、始まるーー。

作品レビュー

日頃よりフランスびいきの私は、フランス作品ということで鑑賞したが、ある意味油断していたと思う。

音楽に関して、とりわけクラシックについてはまるで素人の私にも響く場面が散りばめられ、音楽のそばに生きるキャラクター達の言葉も詩的な感性に満ちている。

貧しい環境で育った若者マチューは、道行く人が自由に弾けるというストリートピアノで演奏していたところ、名門音楽院のディレクター、ピエールの目に留まりスカウトを受けるところから物語は始まる。

夢のような申し出だというのに、この主人公の若者マチューときたら、我儘で、反抗的で、見ていて本当に腹立たしくなってしまう。

マチューを見初めた音楽院の幹部であるピエールに対しても、ここまで肩入れする価値があるのだろうか?と、崖っぷちに追い込まれるほどのリスクを取ってまで、賭ける姿に疑問を感じた。

そんな印象を抱いた私は、この物語の作り手の思惑通り、すっかり乗せられていたのだと後に気付かされることになる。

こう書くと前半部分はいまいちなのかと思われかねないが、冒頭からのスピーディーな展開も小気味よく、マチューの少年時代、ピアノに触れるようになったきっかけの描写もまた涙誘われる美しい場面で、作り手のストーリー運びの巧みさにたちまち取り込まれてしまう。

周囲と衝突を繰り返しながらも心を通わせてゆく登場人物たちの姿は青春映画のようにも映った。

一進一退のような状況の中、マチューにもピエールにも逆風が吹き荒れ、物語はどう転がるのかと固唾を飲んで見守ることになる。終盤に向かうほど怒涛の展開が繰り広げられ、前半、中盤の伏線的な部分が、鮮やかに実を結んでゆく。

終盤、あまりに酷な予想外のシーンから、そうつながってゆくのかと、嗚咽しそうなほどむせび泣いてしまった。やはりマチューでなければ、彼の人生でなければ表現できなかった音楽というものを目の当たりにさせられるのである。

おそらく良作なのだろうと予測していたが、実際はそれどころではないほど、傑作レベルと言えるほど、私の感性に突き刺さってくる作品であった。音楽好きの友人を誘って劇場へ赴き、語り合いたくなってしまう、そんな一本である。

予告動画

『パリに見出されたピアニスト』11月23日(土)シアターキノにて公開

出演
ジュール・ベンシェトリ、ランベール・ウィルソン、クリスティン・スコット・トーマス
監督・脚本
ルドヴィク・バーナード
原題 AU BOUT DES DOIGTS
製作年 2018年
製作国 フランス=ベルギー
配給 東京テアトル
上映時間 105分
公式サイト

(C)Récifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018

投稿者プロフィール

Kana
フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。
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