夢に、目がくらむ。
黄金がつないだまさかの友情、しかし―4人は手を組むべきではなかった
ヴェネチア国際映画祭での銀獅子賞〈監督賞〉受賞を幕開けに、仏アカデミー賞(セザール賞)でも監督賞を含む4部門を制した巨匠ジャック・オーディアールが映画界最高の実力者キャストで描く人間の欲望をあぶりだす心理サスペンス。日本でも全く予測不能の展開で観客の目をくらませる。
時はゴールドラッシュ、最強と恐れられる殺し屋兄弟は一帯を仕切る提督からの依頼で、仕事仲間の連絡係と共に、黄金を見分ける化学式を発見した化学者を追う。だが、黄金に魅せられた4人は、立場を超えて手を結ぶことになるが・・・。
独特の世界観ある作品である。試写後、かつての名画「スタンド・バイミー」の大人バージョンとでも形容できそうな気がした。そんな印象を受けていたら、主要キャラクターをその「スタンド・バイミー」で主演をつとめたリヴァー・フェニックスの弟である役者が演じていたとは偶然である。
舞台は1851年アメリカオレゴン州、ゴールドラッシュ時代。これでもかというほどコテコテの西部劇な背景に、主役は殺し屋の兄弟。激しい打ち合いからのオープニングである。
最強の殺し屋兄弟、シスターズ・ブラザーズ。名字が「シスターズ」とは実際にありうるのだろうか?遊び心を感じるネーミングである。
殺し屋の弟、狂犬ふうキャラクターを演じるのがホアキン・フェニックス。そして殺し屋の兄の人柄が私は気に入っている。ルックスはイケメンではないが、内面はナイーブでジェントルマン。凄腕の殺し屋でありながら引退を切望する、葛藤を抱えた兄をジョン・C・ライリーが好演している。
この物語の登場人物は多くはない。それだけに主要人物たちがそれぞれ引き立っている。
ゴールド・ラッシュ時代、重要な化学式を突き止めた化学者ウォームと、権力者の依頼を受け、彼を付け狙うモリスの出会いのシーンは印象的である。ウォームの敵であるモリスが、ウォームに心惹かれてゆく様子は見どころのひとつである。理想を掲げる高貴な佇まいの化学者に、モリスは共鳴する魂を持ち合わせていたのだと感じる。
やがて殺し屋兄弟と化学者ウォーム、権力者の手先であるモリスがいかにして集結し、どのような人間模様を奏でるのか、さらにその先には衝撃の展開が用意されているのは大きな見どころだ。
全体的に残酷なシーンも多く、殺伐とした舞台設定なのに、なぜだか青春映画のような不思議な感覚を覚えた。西部劇やドンパチ、そして「ロード・オブ・ザ・リング」のような広大な自然の風景、旅、野宿等の要素はとりわけ男性の心を魅了するのではと感じた。これらの世界が好きな方にはたまらないであろう、魅力の詰まった作品である。
監督: ジャック・オーディアール
キャスト: ジョン・C・ライリー/ホアキン・フェニックス/ジェイク・ギレンホール/リズ・アーメッド
原作: パトリック・デヴィット
上映時間 :122分
製作国 フランス、スペイン、ルーマニア、ベルギー、アメリカ
配給会社 ギャガ
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