同じ顔をした二人の男と、その間で揺れ動く女の8年間を丁寧に、スリリングに描く本作は問いかける。
人はなぜ人を愛するのだろう? その人の何に惹かれ、なぜその人でなくてはならないのだろう?
同じ顔の二人の男と、一人の女。8年間の物語と衝撃の「愛の真実」。
第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された。芥川賞作家・柴崎友香の同名恋愛小説を東出昌大、唐田えりかの主演により映画化。
東京。カフェで働く朝子は、コーヒーを届けに行った先で亮平と出会う。真っ直ぐに想いを伝えてくれる亮平に、戸惑いながらも惹かれていく朝子。そして、ふたりは仲を深めていく。しかし、朝子には亮平に告げていない秘密があった。亮平は、かつて朝子が運命的な恋に落ちた恋人・麦[ばく]に顔がそっくりだったのだ―。
手短な感想を述べると、この映画すごいな。
心にズシンと響いて、忘れられないほどにこびり付いてしまった。
主人公の朝子は大学時代に、麦(ばく)と運命の出会いをするが、猫のように自由な麦は朝子の前から突然姿を消す。
数年後、朝子は麦と同じ姿をした亮平と出会い恋に落ちる。
心から愛した麦と同じ顔だから亮平を好きなのか?
ただ単に亮平を好きなのか、朝子の気持ちは本人すら掴めない。
主演・東出昌大が初の一人二役で見せる新境地。
麦と亮平。ルックスは同じだが違う生き方のふたりを演じ分ける。
麦はミステリアスで超絶カッコいい。東出昌大ってこんなにイケメンだったのか。まるでふたりの違う男を見ているようだ。
亮平は平凡なサラリーマンだが、優しさと包容力のある素敵な男性。掴みどころがない麦よりも、実直な亮平が私のタイプだ。
女優としてキャリアの浅い朝子役の唐田えりかは、痛々しい朝子の気持ちを瑞々しく表現している。
脇を固めるのは、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知、仲本工事、田中美佐子の豪華キャスト。
シーンの切り替わりが早くリズミカルに進んでいく。次々と展開する新しい場面に惹きつけられる。
8年という時間軸には「東日本震災」という出来事も場面の一つとして入り込む。
非日常と日常の境目で揺れ動く本物の恋愛小説を、この映画を通して知った。
過去に好きだった彼と、同じ姿、声、身長の人と出会うと、必然のように恋に落ちるだろうか?
朝子の行動は、観る側の共感や反感を生むだろう。恋愛観や経験で、それぞれの受け止め方は異なる。
過去にパートナーから裏切られた経験を持つ人なら、泣いてしまうかもしれない。裏切った経験を持つ人なら、自分の行動を省みるだろう。
あらゆる人々に疑問を投げかけるラブストーリーは、再び劇場で観たいと思う深い作品である。
監督:濱口竜介
キャスト: 東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)、仲本工事、田中美佐子
原作:『寝ても覚めても』柴崎友香(河出書房新社刊)
製作:『寝ても覚めても』製作委員会
音楽:tofubeats 主題歌:tofbeats「River」
(unBORDE/
上映時間:119分
配給:ビターズ・エンド
(c)2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会