カナダで最も有名な画家。
モード・ルイスが教えてくれる、人生で大切な喜びとは――
カナダの美しい四季と動物を色鮮やかに描き続けた画家モード・ルイスと、彼女を 不器用ながらも献身的にサポートした夫のエベレット。孤独だった二人が運命的な 出会いを経て、夫婦の絆と慎ましくも確かな幸せを手に入れた感動の実話が映画化。
主人公モードを演じるのは、『ブルージャスミン』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた実力派サリー・ホーキンス。夫のエベレットは、こちらもアカデミー 賞ノミネート常連組のイーサン・ホークが無骨に演じる。
絵を描くことと自由を愛するモードは、ある日、魚の行商を営むエベレットが家政婦を探していることを知る。共に暮らす叔母から自立するため、彼女は住込みの家政婦になる事を決意。幼い頃からリウマチを患うモードと孤児院育ちで学も無いエベレット。
はみ出し者同士の同居生活はトラブル続きだったが、やがて2人はお互いを認め合い結婚する。
一方、家の壁に描かれた絵ですぐにモードの才能を見抜いたエベレットの顧客サンドラは、モードに絵の創作を依頼。いつしかモードの絵は評判を呼び、アメリカのニクソン大統領からも依頼がくるほどに…。
カナダの有名画家であるモード・ルイス(1903-1970)の半生を演じたのは、近頃「シェイプ・オブ・ウォーター」でも印象的な演技を見せたサリー・ホーキンス。美人とは思わないが、一癖もふた癖も感じさせる存在感の強さは並ならぬものを感じる。
幼い頃からリウマチを患い、両親の他界後は親戚達から疎まれていたモード。実家を継いだ兄は叔母に彼女を押し付け、住んでいた家を売ってしまった。叔母は渋々彼女を受け入れたものの、息苦しく居心地の悪い日々が続いていた。
モードは買い物した先で家政婦の求人をしていた男性エベレットを見かける。がさつで無骨そうな男だったが、モードはすぐに応募した。叔母から自立し仕事を得る決意だった。
イーサン・ホーク演じるエベレットはモードを雇うことに積極的ではなかったが、彼女の熱意に押される形で結局彼女を雇うことにした。叔母とけんか別れしエベレットの家の住み込み家政婦として働き始めるが、待遇は少しも良いとは言えなかった。
孤児院育ちで学もなく、生きるだけで精いっぱいだったエベレット。理不尽で独善的、横暴な彼のもとで暮らすよりは叔母の家の方がむしろましではなかったかと思ってしまうほどだ。それでも帰る場所のないモードは、彼の家で暮らすことを選んだ。
衝突の多い二人だったが、互いを意識する関係になってゆく。家政婦として働きながら、家の壁や窓に絵を描き始めるモード。エベレットが魚の行商をする顧客サンドラはひとめでモードの絵のファンになった。彼女の描くポストカードを購入し、悪くない額で絵の制作を依頼した。
痛ましい過去も乗り越え、モードとエベレットは結婚した。やがて彼女の絵は評判となり、雑誌やテレビで取り上げられるようになると、彼女の絵を買いたがる人々が家を訪れた。モードは絵を描くことに集中し、家事や絵を売るのことがエベレットの役割となった。
初めは暴君だったエベレットの変化は興味深い。歳月を経てもなお不器用なエベレットは、わかりやすい言葉で愛を語る場面は少ないものの、彼がモードのためにする行動は彼女への愛を物語っていた。
劇中で目にすることのできるモード本人の作品は明るく可愛らしい世界が描かれ、鮮やかな色合いと柔らかいタッチに心躍らされる。絵を描くことを愛してやまなかった彼女の幸せが伝わってきて、優しい気持ちになった。
映画の後半は長い年月を連れ添った夫婦の愛の物語だ。ぶつかり合うことがありつつも、互いを誰より気にかけている二人の姿が心に触れた。
モード・ルイス本人の映像も必見である。小柄で目を輝かせた、好奇心旺盛そうな、キュートな老女。あのような生き生きとした可愛らしい絵を描く人は、まさにイメージを裏切らない姿をしていた。
涙してしまう映画は数あるものだが、嗚咽が漏れそうになるのを辛うじてこらえたことは稀だった。人それぞれの置かれているシチュエーションによってこの映画の感じ方は異なるかも知れない。個人的には強く響く場面の多い作品だった。
監督:アシュリング・ウォルシュ
出演:サリー・ホーキンス、イーサン・ホーク
2016年/カナダ・アイルランド/英語/116分/DCP/カラー
配給:松竹
原題・英題 MAUDIE
(c)2016 Small Shack Productions Inc. / Painted House Films Inc. / Parallel Films (Maudie) Ltd