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菅田将暉✕ヤン・イクチュン W主演「あゝ、荒野」前篇/後篇

作品紹介

1960年代後半、激動の時代に演劇、映画、文学とマルチに活躍し、今なおカルチャーアイコンとして注目され続ける寺山修司。彼が遺した唯一の長編小説、『あゝ、荒野』。人々の“心の荒野”を見つめた傑作が、半世紀以上を経て大胆に再構築され、新たな物語として生まれ変わった。
主人公の新次には若手実力派俳優の筆頭格・菅田将暉。もう一人の主人公バリカンには『息もできない』で各映画賞を総なめにしたヤン・イクチュン。
さらに、ユースケ・サンタマリア、木村多江、木下あかり、高橋和也、モロ師岡、今野杏南、山田裕貴、でんでんといった魅力あふれる役者陣が顔を揃える。監督は『二重生活』の岸 善幸。
2020年の東京オリンピックの後を舞台に、都会の片隅を生きる人々の“心”を鋭く描きだす。

ストーリー

ふとしたきっかけで出会った新次とバリカン。
見た目も性格も対照的、だがともに孤独な二人は、ジムのトレーナー・片目とプロボクサーを目指す。
おたがいを想う深い絆と友情を育み、それぞれが愛を見つけ、自分を変えようと成長していく彼らは、やがて逃れることのできないある宿命に直面する。

幼い新次を捨てた母、バリカンに捨てられた父、過去を捨て新次を愛する芳子、
社会を救おうとデモを繰り広げる大学生たち・・・

2021年、ネオンの荒野・新宿で、もがきながらも心の空白を埋めようと生きる二人の男の絆と、彼らを取り巻く人々との人間模様を描く、せつなくも苛烈な刹那の青春物語。


作品レビュー

2021年近未来の新宿。
今の時代の世相を反映した、日本の問題点を物語の随所に埋め込んでいる。

自衛隊
大学生の奨学金返済
介護
自殺
家庭内暴力
貧困
振り込め詐欺
東日本大震災
テロ
家族の絆

そして孤独…

主人公の新次は、振り込め詐欺が原因で仲間割れとなり、友に裏切られ少年院に3年入っていた。
母に捨てられた過去がトラウマの新次。
自分を裏切った裕二がプロボクサーとなっていたため、新次もプロボクサーを目指しリングの上で復讐を誓う。

もう一人の主人公、建二は床屋で働く韓国人と日本人のミックス。
母が死んだ時に、自衛官の父に無理やり韓国から日本に連れて来られた。
吃音と赤面症に悩み対人関係を上手く築けない。
建二は父からの暴力に対抗し、強くなるためボクサーとなる。

ボクシングジムの堀口にスカウトされ、兄(建二)弟(新次)と、兄弟のように仲良くジムで生活するふたり。
しかし彼らには、見えないところでリンクする深い因縁があった。

前篇157分、後篇が147分と長編の大作は、家族の絆、男女の恋愛、ボクシングへの闘志と、てんこ盛りの内容。

菅田将暉演じる新次と、ガールフレンドの芳子のベッドシーンは、格闘技を観ているようだ。

手足が長く、均整のとれた菅田将暉に見合うスタイルの良い芳子を演じた木下あかり。
いやらしさの感じないふたりの絡みは激しく切なく、芸術的に見えた。

そして菅田将暉の演技力は本当にスゴイ。
演技の幅が広すぎて、毎回違う役をキッカリと演じ分けるその才能に驚く!

建二を演じた、ヤン・イクチュンは2009年、自身が監督、脚本、主演で映画賞を総なめにした「息もできない」で、凶暴で口は悪いが心根の優しい男を演じた。
「息もできない」で、ヤン・イクチュンが演じたサンフンと「あゝ、荒野」で菅田将暉が演じた、新次のキャラクー、ふたりが似ているように感じた。
暴力的で野生児のように見境なく人を殴り、短絡的思考で行動する男たち。

新次と建二は出会い、孤独が癒やされ、堀口にボクシングを教わり、彼らは次第に変化成長していく。
彼らは、家族が増えて幸福が増したように見えるが、その幸せは長く続かない。

新次と建二の体型は物語が進むに連れて変わっていくのが判る。
どんくさかった建二は、筋肉が増え機敏になり、ボクシングの腕は上がっていく。

彼らの生々しいボクシングの試合シーンでは、その熱量を感じ取れた。
「明日のジョー」を思い出す、泥臭い男同士の闘い。

寺山修司の原作では60年前が舞台だが、東京オリンピックが終わった、祭りのあとの不安や断絶を想像しながら映画化したと監督・脚本の岸善幸は語る。

苦しさ、辛さ、そして男同士の友情に涙し、五感を揺さぶられ、魂を吸い取られる…そんな激しい映画だ。

予告編

キャスト/スタッフ

監督・脚本:岸善幸

キャスト:菅田将暉、ヤン・イクチュン、ユースケ・サンタマリア
木下あかり、モロ師岡、高橋和也、今野杏南、山田裕貴、河井青葉
前原滉、萩原利久、小林且弥、川口覚、山本浩司、鈴木卓爾、山中崇、でんでん、木村多江

原作:寺山修司「あゝ、荒野」
主題歌:BRAHMAN/「今夜」

配給:スターサンズ
前篇157分/後篇147分
R15指定

©2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

投稿者プロフィール

佐藤 友美
2013年にHokkaido Movie Review・新作映画の最速レビューサイトを立ち上げ『映画レビューサッポロ from HMR』として2017年10月にwebを一新。
旅好きで映画ロケ地のツアー取材が得意。FMラジオでの映画紹介を経てからの映画ライターと本Webサイトのデザインを担当。
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