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法廷心理ドラマ「三度目の殺人」作品レビュー

  • 2017年8月6日

作品紹介

弁護士(福山雅治)VS 殺人犯(役所広司)
『そして父になる』是枝裕和最新作
オリジナル脚本で描く法廷心理ドラマ

ストーリー

勝利にこだわる弁護士重盛(福山)が、やむをえず弁護を担当することになったのは、30年前にも殺人の前科がある三隅(役所)。解雇された工場の社長を殺し、死体に火をつけた容疑で起訴されている。犯行も自供し、このままだと死刑はまぬがれない。はじめから「負け」が決まったような裁判だったが、三隅に会うたび重盛の中で確信が揺らいでいく。三隅の動機が希薄なのだ。彼はなぜ殺したのか?本当に彼が殺したのか?重盛の視点で絡んだ人間たちの糸を一つ一つ紐解いていくと、それまでみえていた事実が次々と変容していく―。心揺さぶる法廷心理ドラマ。

作品レビュー

「三度目の殺人」というこのタイトル、なんとも意味ありげだと感じた。
鑑賞し終えてもなお、あれこれと憶測をめぐらせてしまう。犯人が犯した殺人について指しているのか、あるいは・・・?
作品を観た方は別の可能性にも思い至るだろう。

福山雅治演じる弁護士役の重盛は、ビジネス主義の男。弁護は仕事であり、弱者を守る為といった理念もなく、真実の追求にも興味がない。状況に合わせて冷静に要素を拾い上げ、裁判を有利に進めさせるのが得意だった。

今回の仕事は役所広司演じる三隅という男の弁護。30年前にも殺人を犯し、今度は金銭目当てに雇い主を殺して遺体を燃やした。三隅は殺人を自供していて、このままでは死刑は確実だが、なんとか無期懲役に持ち込ませたかった。

重盛にとっての裁判はまるでゲームのように見える。法というルールに基づいて、どれだけ自分たちが有利に戦えるか。勝つためには、何が真実か?何故か?動機は?といった疑問は重要ではなく、いつどのタイミングでどの手を打つか、重盛自身や彼をサポートする同僚にとっても戦略や戦術がすべてだった。

三隅の事件は難しそうではあるが、減刑できそうな要素を見つけた重盛はいつものように事をすすめていた。だが関わるにつれ、三隅の言動は二転三転する。真実に興味のなかった重盛も、何が本当なのかを本気で知りたいと思うようになる。

この映画の主題は謎解きではないようだ。主役の重盛と同じように、スクリーン越しの私達も三隅に翻弄され続ける。三隅はとらえどころがなく、謎めいて不可思議な男性だ。彼の表情、話しぶり、行動などを振り返っても、本当の彼はいつまでもつかめない。改めて、役所広司という俳優の力業に舌を巻いてしまう。

「法廷では誰も本当のことを話さない」と言う三隅。警察や検察、弁護士など関係者の先入観によって事実も自供もたやすくねじ曲げられ得る現実。費用や関係者のスケジュール等、大人の事情ありきの法廷。真実を明らかにし、公正に罪を裁くという大義名分は置き去りの司法システムの限界と危うさも浮き彫りにされている。

もともと真実という言葉はまやかしに過ぎない。単にある立場からの主観に過ぎない。ひとつの事実に対して真実は無数にある。それぞれの立場や知り得た情報から得たひとつの見解を、各自が真実と呼ぶだけだ。

そんなあやふやな「真実」の側面も描かれている。三隅の真意は簡単には測れない。しかし最初は他人事のような態度だった彼の感情表現の振り幅が次第に大きくなってゆくことにも注目したい。

真実とはいい加減なものだが、ストーリーでは沢山の「事実」も描かれている。いつしか重盛が変化してゆくことや、やがて明るみとなる三隅と被害者の娘との接点。いびつな夫婦、家族の関係。

新たな謎に巻き込まれ、物語に引き込まれる。最後まで三隅に翻弄されてしまう。ぜひ誰かと一緒に観るべき映画のひとつだ。見終わった後、それぞれの見解を話し合いたくなるだろう。

製作/キャスト

監督/脚本:是枝裕和

キャスト
・福山雅治
・役所広司
・広瀬すず
・吉田鋼太郎
・斉藤由貴
・満島真之介

配給: 東宝 ギャガ
公式サイト
上映時間:124分

(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

投稿者プロフィール

Kana
フランス語講師。映画大好き、書くのも好きなので映画レビューサッポロのライターへ立候補。
仕事柄プライベートではフランス作品の鑑賞に偏りがちですが、様々なジャンルをバランスよく観たいです。子供の頃、若い頃はSFやアクション系が好きでしたが、近頃は人間ドラマ重視の作品により惹かれます。
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