『ヴァイブレータ』『さよなら歌舞伎町』廣木監督の真骨頂!
帰る場所もなく未来も見えない者たちに光は届くのか。
週末になると高速バスで、福島から東京へと向かう。円山町のアルバイト先のデリヘルに向かうために。
人は与えられた運命から逃げ出したくなることがある。そんな時みゆきは、仮設住宅で父と二人で暮らす福島から高速バスに乗り、渋谷へ向かう。円山町のアルバイト先のデリヘルに向かうために。
2つの都市を行き来する日々に、みゆきが見たものとは?戻る場所もなく進む未来も見えない者たちは、もがきぶつかり合いながらも光を探し求める――。
全体を通して重苦しい閉塞感が漂っていた。
物語の舞台は福島。災害から5年を過ぎてもなお、人々の傷は癒えてはいない。
主人公の女性は父親と二人暮らし。母親は震災で亡くしてしまっているが、遺体は見つからなかった。父は妻の死から立ち直れておらず、働きもせず、仕事も探すでもなく、補償金をパチンコにつぎ込むばかりの日々。
主人公の娘は市役所に勤めている。週末は福島から高速バスに乗り、東京へ向かう。父には英会話教室へ行くと偽っているが、実際はデリヘルのアルバイトをしている。
性風俗の場面は生々しく、痛々しい。災害で荒れた地域に住んではいても、安定した勤め先があり、収入もあるはずの彼女がそれをしなければならない理由は見いだせない。彼女の痛みや闇について想像をめぐらすしかなかった。
ふつう地方から都会へのバスに乗ることは、何かもっとわくわくする、高揚感のある目的があってのことだと思う。旅行や買い物、イベントへの参加や人に会うとか、特別な仕事等。わざわざ東京へ向かう彼女に笑顔などない。デリヘルのバイトをすることは自傷行為としか思えない。生き残ったことを罰せずにはいられないのか。あるいはむしろ生きるエネルギーを求めていて、自分を傷つけ貶めることで、痛みを感じることで生と向き合っているのだろうか。
登場人物のほとんどが傷を抱え、心を病んでいる。荒んだままの現地の映像もこれが現実であると突きつける。月日が経っても癒えてはいない、今もなお苦しみもがく人々を映し出す。
まだ傷ついている、叫びたい、泣きたい。そんな思いを出すに出せない人々の、それぞれの痛ましい姿。理不尽でも、矛盾だらけでも、立ち直れなくても、誰にもその姿を責めることなどできない。その人が選んだあり方を、彼女に対して、彼に対して、他人がどうこうジャッジできることではない。そんなメッセージが込められているのだろうか?
解決策や人の心の復興がはっきりと描かれているわけではないが、物語の中には前向きな情熱やささやかな希望が描かれている。いまだ混沌とした現実の中で、小さな変化も垣間見られたのが救いだった。
監督 廣木隆一
キャスト: 瀧内公美/高良健吾/柄本時生/光石 研
【原作者】廣木隆一 「彼女の人生は間違いじゃない」(河出書房新社)
上映時間 119分
製作国 日本
配給会社 ギャガ
オフィシャルサイト
劇場公開情報
7月15日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館 他 全国順次ロードショー
札幌シアターキノで公開
(c)2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会