元NHKの映像ジャーナリスト河邑監督が照らすのは、100歳を越えても現役で活躍する二人、日本初の女性報道写真家・笹本恒子と伝説のジャーナリスト・むのたけじ。戦時中、朝日新聞の記者として戦争を追ったむの。宇野千代や三岸節子など日本の女性史をとらえてきた笹本。生涯を報道に捧げた二人の生き方をとおして、日本の現代史が浮き彫りになってくる。
まもなく100歳を迎える二人が対面するシーンから映画は始まる。同じ時代を生きてきた、笹本恒子とむのたけじ。笹本は日本初の女性報道写真家、むのは孤高にして伝説の反戦のジャーナリスト。NHKのディレクターとしてドキュメンタリー番組「がん宣告」「シルクロード」「チベット死者の書」などで数々の賞を受賞した、河邑監督が二人が放ついのちの輝きとその秘訣に深く迫っていく。
笹本は「今も現在進行形」と語り、むのは「今が人生のテッペン」と語る。共通するのは、フリーランスとして独自の道を歩み、日本特有の狭い価値観からは距離を置いてきた姿勢。そして、人々の日常に寄り添う血の通ったものの見方。そのライフスタイルは、人生100年時代、世界のどこよりも早く超高齢社会を迎える日本で、老いをどう生き抜くか考える人を励まし、希望を届けてくれる。
「10年ひと昔」というが、お二人にとっては60年前、70年前ですら「今」とつながっていて、決して「昔」のことと分けていない。時代も世代も超えて、聞き、見、伝える。
これこそが伝説のジャーナリストだ。
お二人とも、語り始めると記憶の泉があふれてくる。
俳句や歌を口ずさみながら、どの時代に何があったか、どんな変化があって今の日本があるのか。
「あの頃」を思い出した時の、あの青春時代に戻ったような若々しい表情としっかりとした口調で語る姿がとても印象的だった。
のむたけじさんは、若者との対談で学生の奥歯にものが挟まったような表現を、一刀両断。スパッと言い切る姿はまさに伝説の記者ここにありという獅子吼の迫力に圧倒された。
笹本恒子さんは、女性の心と生き方を美しい日本語で語りかけてくる。時代時代を生き抜いた女性たちを尊敬しながらも自分の生き方にも自信をもって語る。
恒子さんは、入院中の取材にも正装し、紅を引き、マニキュアを塗り、指輪とイヤリングを欠かさない。女性らしさを忘れない恒子さんは本当に日本女性の鏡だ。
時事を語るお二人が経験した100年はやはり長い。しかし、お二人にとって「晩年」とはいつを指すのか。もしかしたらないのかもしれない。
語ることができる人生を歩んできたお二人だからこそ、いくつになっても好奇心が止まらないんだと実感しました。1つの問いにあふれんばかりの時事と体験を語る。何を語るにも単刀直入、ジャーナリストの宝というべきお二人の生の声を聞くことができる素晴らしい作品です。
監督・脚本:河邑厚徳(『天のしずく辰巳芳子“いのちのスープ”』)
出演:笹本恒子、むのたけじ
語り:谷原章介
音楽:加古隆
製作:ピクチャーズネットワーク 配給マジックアワー、リュックス
2016年/日本/ドキュメンタリー/カラー/91分/デジタル 助成:文化庁文化芸術振興費補助金
公式サイト:warau101.com
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