わずか17日間で撮影された低予算の監督デビュー作ながら、スペイン映画として初めてインディペンデント・スピリット賞で3部門にノミネート。さらに、世界各国の映画祭でも新人監督賞や観客賞を受賞するなど、注目を集めたリアリティMAXの深層心理サスペンス――映画『入国審査』。
舞台はニューヨークの空港。
入国審査を待つのは、移住のビザを取得し、新天地での生活を前に希望に満ちたカップル。しかし突然、説明もないまま二人は別室へと連行され、密室での不可解な尋問が始まる。なぜ二人は止められたのか? 審査官は何かを知っているのか?
予想外の質問が次々と浴びせられる中、やがて“ある疑念”が二人の間に芽生え始める──。
気弱に見えて得体の知れない影を感じさせるディエゴ役に、『ナルコス』『プリズン211』のアルベルト・アンマン。異国の地でパートナーの知られざる一面に直面することになるエレナ役には、『悲しみよ、こんにちは』『その住人たちは』(Netflix)のブルーナ・クッシ。
そして、威圧的かつ底知れぬ恐怖を放つ二人の審査官を演じるのは、Netflixの大ヒットシリーズ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のローラ・ゴメスと、『サン・セバスチャンへ、ようこそ』のベン・テンプル。
監督・脚本はアレハンドロ・ロハスとフアン・セバスチャン・バスケスのコンビ。ロハス監督自身が、故郷ベネズエラからスペインへの移住時に体験した実話からインスピレーションを得て、本作が生まれたという。
何が真実で、どれが嘘なのか?
答えひとつで、強制送還、拘束、そして──
予測不能の緊迫感が全編を包み込む、わずか77分のサスペンス・スリラー!
移住のために、バルセロナからNYへと降り立った、ディエゴとエレナ。エレナがグリーンカードの抽選で移民ビザに当選、事実婚のパートナーであるディエゴと共に、憧れの新天地で幸せな暮らしを夢見ていた。
ところが入国審査で状況は一転。パスポートを確認した職員になぜか別室へと連れて行かれる。「入国の目的は?」密室ではじまる問答無用の尋問。やがて、ある質問をきっかけにエレナはディエゴに疑念を抱き始める―。
空港という名の密室で、何が起きているのか。入国審査の裏に潜む、“見えない境界線”――映画『入国審査』
NYの空港。新天地を目前に控えたカップルに、思いもよらぬ悪夢が待ち受けていた。スペインからアメリカへ渡航してきたのは、スペイン人女性エレナと、彼女のパートナーであるベネズエラ出身のディエゴ。グリーンカードを取得したエレナに帯同するかたちでアメリカに入国しようとするディエゴだったが、入国審査の場でふたりは別室に呼び出される。
理由の説明もなく引き離され、始まるのは“尋問”としか言いようのない、威圧的な面接。どこに住むのか?どこで出会ったのか?ふたりの関係は本物か?という極端にプライベートな質問から、あらぬ疑いを含んだ誘導尋問に至るまで、次第にふたりの心に“疑念”が生まれていく。
本作は、わずか17日間で撮影されたスペイン映画でありながら、アメリカを舞台に描かれる入国審査の現実を、密室のサスペンスとして描き切った注目作。監督のアレハンドロ・ロハス自身が、かつてベネズエラからスペインに移住した際に受けた厳しい入国審査の体験をもとに、現代の移民社会が抱える“見えない境界線”を浮かび上がらせていく。
全編77分。だがその短さを感じさせないほどの緊張感に満ちている。観客はふたりと同じように“別室”に閉じ込められ、審査官の言葉に揺さぶられ、何が真実で何が嘘か、自らの価値観を問われることになる
本作が他のスリラーと決定的に異なるのは、その“視点”だ。物語の着想は、南米ベネズエラからスペインへと移住したロハス監督自身の体験にあるという。欧州内でさえ警戒される南米のパスポートであること。出自やアクセントひとつで、人の尊厳が疑われること。映画はアメリカでの入国審査を舞台に描かれているが、本質的には“どこにでも起こりうる”物語だ。
現在、世界で最も信頼度が高い日本のパスポートでさえ、渡航者は何らかのストレスを感じた経験があるだろう。では、国際的信頼度ランキングの下位に位置する国から来た人々はどうか。誰もが一律に迎え入れられるわけではない現実。特に2020年代初頭のアメリカが、排他的な移民政策を強化していた時期であることを踏まえると、本作の描写は単なるフィクションでは済まされない。
映画では、入国審査官が無表情のまま、言葉巧みに二人を“分断”していく。カップルであること、グリーンカードを持っていること、誠実に答えていること――実はどれもが関係ない。入国審査官の前ではただ、彼らの「人間性」が問われるだけだ。その過程は、まさに現代社会が抱える偏見と権力構造の縮図である。
確かに、不法移民の流入や国防の観点から、厳しい審査が必要な国もある。だが、だからといって人権や信頼を無視しても良い理由にはならない。許容と警戒、そのバランスの危うさを、観客に突きつけてくる。
本作は、観終わった後も答えをくれない。ただひとつ、残るのは――「これが、もし自分だったら?」という問いだ。入国審査とは、本当に“国に入るか否か”を決めるだけの場なのか。そこにあるのは、国家が個人に向ける、静かで苛烈な“視線”なのかもしれない。
監督・脚本:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケス
出演:アルベルト・アンマン、ブルーナ・クッシ
配給:松竹
後援:在日スペイン大使館、インスティトゥト・セルバンデス東京
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