『ぼくのお日さま』の舞台挨拶が2024年8月28日にTOHOシネマズすすきので行われた。
今作は『僕はイエス様が嫌い』で一躍脚光を浴びた奥山大史が監督・脚本・撮影・編集を手がけ、池松壮亮を主演に迎えて撮りあげた作品となっている。
ほとんどのシーンが北海道で撮影されているのだか、あの寒々しい豪雪はこんなにも美しく温かいものだったのかと驚くほど見え方が違う。一面を囲む雪、聳え立つ山々、広大な自然。皆に愛される北海道の空気感というのはこういうところなのだろう。
舞台挨拶には 奥山大史監督が登壇。
小学生の頃から何度か北海道にきていたという監督だが意外にも夏の北海道に来るのは初めて。我々道産子には暑く感じたこの日の気温も、とても涼しく感じ過ごしやすいと話してくれていた。
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以下、奥山大史監督のインタビュー
撮影から1年以上経ってこうして北海道に戻ってこられて嬉しいと話す奥山監督。
スケートリンクのシーン以外は北海道で撮影しているということもあり「キャストの人たちが話す思い出もほとんどが北海道のこと。公開されたら皆と戻ってきたいと思っているくらいこの映画にとって大事な場所」と話してくれた。
幼少期に7年くらいフィギュアスケートを習っていた監督が実体験をベースに映画を作れないかと考えながら、”思い出再現ビデオ”ではないものにしたいと悩んでいた時にハンバート ハンバート「ぼくのお日さま」に出会ったという。
主題歌でありこの作品のタイトルにもなっている曲だが「毎日毎日聴いているうちにだんだん日中書いている映画のプロットがぼくのお日さまの”ぼく”に寄せつけられていって、書き終わるころには最後にこの曲がかからないとおかしいんじゃないかという使命感に駆られるくらい近づいた」と熱い思いを語ってくれた。
フィギュアスケートをやっていたという設定以外は創作であるものの、フィギュアを滑る姿の美しさに見とれたり男子がフィギュアを滑っていることでアイスホッケーの少年たちに揶揄される描写などは自身の経験の中にある記憶の断片を再現したものだという。どちらのシーンもこの映画の中で記憶に残る重要なシーンとなっており、やはりそれは自身の体験が刻まれているだからこそのように思う。
更に「もうひとつの大きい出会い」と語るのは主演を務めた池松壮亮との出会いだ。別の仕事で旅をしながらカメラを向け続けた際に「何をしていてもとても絵になる」「ただ立っていても座っていても、物語を感じてしまう」「この人で映画をつくりたいと思った」と絶賛。
仮のプロットには彼が演じるような年齢の役は無かったが、池松壮亮に出て欲しいがために創りあがったキャラクターが荒川だという。
孤独な3人が近付き、仲間となり、あるきっかけで離れてゆく。その姿が丁寧に描かれていた。
その後の観客からの質問コーナーでは優しく穏やかに答える監督の姿が見られた。
それによると、この作品の裏設定となっているのは2001年頃。美術や衣装もその頃のものとなっている。というのも、それはまさに監督がスケートを習っていた頃。当時は今ほど男子フィギュアの選手人口は多くなく、セクシャリティの捉え方も今とは違っている。
また、リンクでの撮影に関しては窓のあるリンクを選び、自然光のように撮影した事。春になりさくらが一人滑るシーンでの光の色に注目してみて欲しい事が語られ、貴重な話が聞けた舞台挨拶だった。
田舎街に暮らす吃音のある内気な少年。フィギュアスケートの練習をする少女に一目惚れをした彼は、やがて彼女とフィギュアスケートをしながら少しずつ成長していく。
「僕はイエス様が嫌い」で第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史が監督・脚本・撮影・編集を手がけ、池松壮亮を主演に迎えて撮りあげた商業映画デビュー作。
今作「ぼくのお日さま」が第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に日本人監督としては史上最年少で選出された。
ある日、さくらのコーチを務める元フィギュアスケート選手の荒川(池松壮亮)は、ホッケー靴のままフィギュアのステップを真似する少年の姿を目にする。
ホッケーが苦手なきつ音の少年タクヤ(越山敬達)は、ドビュッシーの曲「月の光」に合わせてフィギュアスケートを練習する少女さくら(中西希亜良)に心を奪われていた。
さくらに、そしてフィギュアにも魅せられたタクヤが何度転んでも立ち上がり挑戦を続けるその様子があまりにも一生懸命で荒川はタクヤの恋を応援しようと決める。
それは現役時代の熱意や輝きを失っていた荒川が変わった瞬間でもあったのではないだろうか。
やがて荒川の提案でタクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めることになるのだが、ここで彼らの歩みを止めたのは予想外の出来事だった。
世の中の世知辛さと、変わらずそこにある雄大な自然。
雪の降る田舎町が舞台となる為北海道での撮影が主なので、よく知る場所が度々出てくるのが嬉しい。
美しい雪景色もさるものながら、次第に心通わせていく少年少女の清々しい姿も印象に残る丁寧な作品だった。
主題歌は音楽デュオ「ハンバート ハンバート」が2014年に手がけた同名楽曲。
この曲がこの作品の本質をうつし出している。
優しさと寂しさと、一歩進む勇気。
柔らかな歌声が希望を感じさせ、余韻として胸に残った。
監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
出演:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、山田真歩、潤浩ほか
主題歌:ハンバート ハンバート 本編:90 分 配給:東京テアトル
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