「そして、バトンは渡された」で2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの原作小説を、『ケイコ 目を澄ませて』が第72回ベルリン国際映画祭ほか20以上の映画祭に出品され、第77回毎日映画コンクールで日本映画大賞・監督賞他5部門を受賞するなど国内外で絶賛を浴びた三宅唱監督(札幌出身)が映画化。NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じた松村北斗と上白石萌音が映画初共演&W主演を務め、今回は同僚役で最高の理解者となる特別な関係性を演じている。
「出会うことができて、よかった」
人生は想像以上に大変だけど、光だってある―
月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、同僚・山添くんのとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていたのだった。職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる。
「そして、バトンは渡された」などで知られる人気作家・瀬尾まいこの同名小説を、「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督が映画化した人間ドラマ。
瀬尾まいこ作品の独特な台詞や思いもよらない着眼点が好きで割と読んでいるのだが、今作は未読。
やはりというか、流石というべきか、PMS(月経前症候群)に焦点をあてるとは。
人それぞれ重さは違えど悩む人が多い問題だが、あまり重要視されてもいないPMS。
それこそ、月によって症状にバラつきもある為当の本人ですらうまくコントロール出来なかったりする。
軽い人にその怠さやイライラを理解しろと言っても難しいだろう。
中でも藤沢さん(上白石萌音)の症状はあまりにも重く激しく、こんな風になってしまうのかと驚きすらした。
もうひとり、パニック障害に悩むのは山添くん(松村北斗)だ。
病名を聞いたことがある人は多いだろうが、ではいざどう接する事が望ましいのかと問われると答えるのが難しい。
彼の気持ちになって考えてみると、生きがいも気力も失ってしまうのもわかる気がした。
2人が働く会社の社長を光石研、山添くんの前の職場の上司を渋川清彦が演じているのだが、それが非常にリアルで彼らの優しさや葛藤に思わず共感してしまう。
登場人物それぞれが自身の持つ心の問題を丁寧に演じ描き、作品全体に深みと人間らしさをもたらしてくれていた。
お互いを思いやる気持ちは温かくて優しく、ホッとする。
それは必ずしも同じ状況や同じ病気である必要はなく、わかってくれている人がいるというだけでその人の持つ悩みが軽減していくように感じた。
人に寄り添えると、自分の事も許せるのでは。そんな事を思う。
職場の人たちの理解や同志と呼べるような存在の大切さに加え、人は誰しも悩みを抱きながら暮らしているという事を再認識出来る作品だった。
出演:松村北斗 上白石萌音
渋川清彦 芋生悠 藤間爽子 久保田磨希 足立智充
りょう 光石研
原作:瀬尾まいこ『夜明けのすべて』(水鈴社/文春文庫 刊)
監督:三宅唱
脚本:和田清人 三宅唱
音楽:Hi’Spec
製作:「夜明けのすべて」 製作委員会
配給: アスミック・エース
上映時間: 119分
公式サイト
©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会