朝井リョウによるベストセラー小説、待望の映画化!
映画を牽引する、稲垣吾郎×新境地を見せる、新垣結衣。いま、この時代にこそ必要とされる、心を激しく揺り動かす、痛烈な衝撃作誕生!
まったく共感できないかもしれない。驚愕を持って受け止めるかもしれない。もしくは、自身の姿を重ね合わせるかもしれない。
それでも、誰ともつながれない、だからこそ誰かとつながりたい、とつながり合うことを希求する彼らのストーリーは、どうしたって降りられないこの世界で、生き延びるために大切なものを、強い衝撃や深い感動とともに提示する。
横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。
広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学のときに転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。
ダンスサークルに所属し、準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸橋大也。学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントで、大也が所属するダンスサークルの出演を計画した神戸八重子はそんな大也を気にしていた。
同じ地平で描き出される、家庭環境、性的指向、容姿――様々に異なる背景を持つこの5人。だが、少しずつ、彼らの関係は交差していく。
この作品は誰かを救う。
そう思えるような映画に、人生で何本出会えるだろうか。
人によっては共感するのが難しいかもしれないが、刺さる人には刺さる特別な1作。
『正欲』がまさにそれだ。
第34回柴田錬三郎賞を受賞した朝井リョウのベストセラー小説『正欲』が稲垣吾郎と新垣結衣の共演で映画化。
性的指向、容姿などさまざまな背景を持つ人々の人生が次々に描かれ交差するヒューマンドラマとなっている。
タイトルのインパクトも強いが、何より中身が濃い。
稲垣吾郎が「どの役も覚悟が必要だった」と話すほど、人には言いづらいデリケートな事情を持つ登場人物ばかりなのだ。
彼らの生きづらさとそれを共感出来るもの同士が感じる疎外感からの解放。
恋愛感情ではなく、それでいて共感し合えたかけがえのない相手への態度を表現するというのは非常に難しい役どころだと思う。
それぞれの名演と岸善幸監督と脚本の港岳彦の手腕が光る作品だった。
検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)の立ち位置はある種一般的であるが、幸せな家庭を築いているというわけでもない。
実家で代わり映えのない日々を過ごす桐生夏月(新垣結衣)と、ひとり地元に戻った佐々木佳道(磯村勇斗)は同じ孤独を抱えている。
大学のダンスサークルに所属する諸橋大也(佐藤寛太)もまた、そんな1人だ。
学園祭実行委員としてダイバーシティフェスを企画した神戸八重子(東野絢香)は、大也のダンスサークルに出演を依頼するのだがそこでも物語は動く。
また、許し難い小児性犯罪に関しても日常に潜む危険を教えてくれている。
近しい人を疑わなければならない事態になる前に、小さな子どもがいる方は安易な動画投稿などには注意を払って過ごして欲しい。
個はどこまでいっても個。そんな中で奇跡のように繋がれた夏月と佐々木の関係性は羨ましいとさえ思える。
近年、多様性が叫ばれてはいるが実際に許容されているのかは疑わしい。
誰にも理解されない世界で見つけた拠り所を 「普通ではない」「有り得ない」と一蹴されるのは絶望でしかない。
ただその一方では、受け入れることが出来ない人の気持ちも理解できるからこそ苦しみは深いのかもしれない。
かく言う自分も変わり者だということは自覚している。
そんな自分がこの作品を観た事で、世の中には自分のようにそう自覚しながら”普通っぽく”擬態して生きている人が大勢潜んでいるのかもしれないと思えた。
個人的には水に思い入れも無いし、そもそも人に対してあまり強い感情が湧かない。
同じような人は劇中に出てきてはいないが、誰ひとりとして同じではないし、違うのは当たり前。
私たちは変わり者である事を楽しみ、時に悲観しながら毎日を生きていくのだ。
原作:朝井リョウ『正欲』(新潮社刊)
監督:岸善幸
脚本:港岳彦
出演:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香、山田真歩、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり、岩瀬亮、坂東希、山本浩司
配給:ビターズ・エンド
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