第70回読売文学賞を受賞、累計28万部を超える平野啓一郎のベストセラー小説「ある男」を、『 蜜蜂と遠雷 』の石川慶 がメガホンをとり映画化。主演の妻夫木聡をはじめ、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、眞島秀和、小籔千豊、仲野太賀、真木よう子、柄本明ら豪華俳優陣が集結した。
弁護士の城戸(妻夫木聡)は、かつての依頼者である里枝(安藤サクラ)から、里枝の亡くなった夫「大祐」(窪田正孝)の身元調査という奇妙な相談を受ける。里枝は離婚を経て、子供を連れて故郷に戻り、やがて出会う「大祐」と再婚。そして新たに生まれた子供と4人で幸せな家庭を築いていたが、ある日「大祐」が不慮の事故で命を落としてしまう。悲しみに暮れる中、長年疎遠になっていた大祐の兄・恭一(眞島秀和)が法要に訪れ、遺影を見ると「これ、大祐じゃないです」と衝撃の事実を告げる。愛したはずの夫「大祐」は、名前もわからないまったくの別人だった。
愛したはずの夫は、
まったくの別人でしたー
芥川賞作家・平野啓一郎のベストセラーを「蜜蜂と遠雷」「愚行録」の石川慶監督が映画化したヒューマンミステリー『ある男』。
妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、柄本明、眞島秀和、仲野太賀、清野菜名など実力派俳優が勢揃いしている事もあり、深みのある作品に仕上がっていた。
自分ではどうすることも出来ない運命に悩み苦しむ人たちの姿。これは映画の中だけの話ではなく、実際にある苦しみなのだというリアリティは、この出演陣だからこそ生み出せたものだろう。
主要人物は弁護士の城戸(妻夫木聡)と、彼に亡くなった夫・大祐(窪田正孝)の身元調査をして欲しいと依頼してきた里枝(安藤サクラ)。
急な相談を持ちかけた里枝の表情には、不慮の事故から知ることになってしまった夫の秘密に眼を向けなければならないという混乱と、やるせなさが常に滲んでいる。
「私は一体 誰の人生と一緒に生きてきたんでしょうね」
心を通わせ家族になった愛する人は確かに存在していたのに、それは大祐ではない別人。そんな想像もつかない程の悲しみや苦しさに、飲み込まれそうになった。
里枝と前夫との離婚調停の際にも力になった城戸という人物は難しい役どころだったと思うが、今作のテーマを受け止め演じ切った妻夫木聡には貫禄すら感じる。
また、妻と子を残して先立つ事になった「ある男」は非常に印象深く、窪田正孝がこの作品に込めた強い思いが伝わってくるようだった。
事故以降の状況の急変による慌ただしさやハラハラする展開があるにも関わらず、まるで時間がゆっくりと流れているような丁寧な描写。これは石川慶監督ならではの表現方法ともいえる。
登場する人物の台詞ひとつひとつ、そして言葉だけではなく表情や仕草・態度から伝わるそれぞれの感情によって、作品全体の切なさが増していたように感じられた。
真実は必ずしも全て知る必要はない。
観た瞬間だけほんの僅かに意識させるような薄っぺらいメッセージではなく、心の奥深くにトゲのように刺さったまま余韻を残す。そんな作品だった。
出演:妻夫木聡
安藤サクラ 窪田正孝
清野菜名
眞島秀和 小籔千豊 坂元愛登 山口美也子
きたろう
カトウシンスケ 河合優実 でんでん
仲野太賀
真木よう子 柄本 明
原作:平野啓一郎「ある男」
監督・編集:石川慶
脚本:向井康介
音楽: Cicada
企画・配給:松竹
上映時間: 121分
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©2022 「ある男」製作委員会