人は、誰だって幸せを求めて生きているけれど、長い人生、幸せを見失ってしまうことだってある。そんな時は、立ち止まってもいい。少し立ち止まって、また歩き出せばいい──。この映画は、脚本家の安倍照雄が10年以上あたためてきたオリジナルストーリーを『愛を乞うひと』『閉鎖病棟 −それぞれの朝−』など、さまざまな視点から人生を描いてきた平山秀幸監督が映像化。過去を抱えながらも「今」を生きる主人公・五十嵐芙美の姿を、これから訪れるであろう幸せや希望を、爽やかに映し出していく。
主演は小林聡美。『かもめ食堂』『めがね』で人生の豊かさを表現してきた彼女が、この『ツユクサ』でも丁寧に生きることの大切さを、より大人の視点で優しく導いていく。脇を固めるのは、抜群の安定感と演技力を兼ね備えた松重豊、平岩紙、江口のりこ。ちょっぴりコミカルで、じんわり心に沁みてくる、熟達した俳優たちの味わい深い掛け合いも見どころ。大人の人生にそっと寄り添ってくれるあたたかい映画がここに誕生した。
とある小さな田舎町で暮らす五十嵐芙美。気の合う職場の友人たちとのほっこり時間、うんと年の離れた少年との友情、芙美と同じ“ある哀しみ”を抱える男性・篠田吾朗との恋の予感、そして隕石に遭遇するというあり得ない出来事も起きる日々のなかで、彼女がひとりで暮らしている理由が少しずつ明らかになっていく。立ち止まった芙美は、どうやって一歩を踏み出すのか…。
決して派手さは感じられないが何故か惹かれる独特な雰囲気。
ずっと変わらないが少女のままというわけではない素敵な歳の重ね方をされている。
そして主役でも脇役でも常に存在感が放たれる50代半ばの女優さんといえば誰の名前が挙がるだろう。
私は真っ先に本作の主演、小林聡美が思いつく。
出演する役柄は毎度本人役ではないのかと疑いたくなるほどピタリとハマっている。
それくらい視聴者の私たちは彼女のイメージを役柄に投影してしまう。
本作もまさしくそれで、海に程近い田舎町で一人暮らしをする50歳一歩手前の女性。明るく仕事も真面目にこなし丁寧な暮らしをしている。何か事情を抱えているのは明らかだが、そこは最後まで明かされない。
そんな彼女だが車を走行中に小さな隕石にぶつかるという奇跡に出逢う。
それが原因か否か平凡で穏やかだった生活に恋愛というスパイスが加わるという話だ。
小林聡美が演じる芙美の他にもそれぞれ事情を抱えている町の人々が登場する。
キャストは江口のりこ、平岩紙、泉谷しげる等、一癖も二癖もあるメンバーだ。
そこに渋くて穏やかな男性、松重豊が登場する。名前が「ゴロウ」だった時は思わずニヤリとしてしまったが、彼もまた重い過去を背負っていることが判る。
40代後半ともなれば男女限らず大なり小なり事情を抱えているだろう。でも生きていかなければならないし否応無しに自分や周りに変化が訪れてくる。
年齢を重ねる毎に挑戦することが減って手放すことや諦らめてしまうことが増えがちだが、芙美の一旦は踏み留まるが突き進もうとする諦めの悪さがとても新鮮で勇気を与えられた気がする。
タイトルの「ツユクサ」は作中で草笛に使用される植物だが、どこにでもある葉っぱにも色んな事情があるという意味が込められている。
芙美の年の離れた小学生の親友、航平が可愛い。子供なりの葛藤やもどかしさに胸がキュッとさせられた。
まだ夏は遠い時期だが、海の景色や人々の軽い装いに眩しさを感じずにいられないだろう。
キャスト
小林聡美 松重 豊
平岩 紙 斎藤汰鷹 江口のりこ
桃月庵白酒 水間ロン 鈴木聖奈 瀧川鯉昇 渋川清彦
泉谷しげる ベンガル
監督:平山秀幸 脚本:安倍照雄
主題歌:中山千夏「あなたの心に」(ビクターエンタテインメント)
配給:東京テアトル
2022年製作
上映時間: 95分
©2022「ツユクサ」製作委員会