原作は、「蜩ノ記」で直木賞を受賞した葉室麟の名作「散り椿」(角川文庫)。
朴訥で不器用だが、清廉に生きようとする侍たちの“凛とした生き様”、そして愛する女性のために命を懸けて闘う、“切なくも美しい愛の物語”をテーマに『雨あがる』(脚本:黒澤明)の小泉堯史が脚本に書き起こしました。
監督・撮影は、これまでキャメラマンとして数多の映画賞を受賞し、初監督作となる『劔岳 点の記』(2009)では第33回日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝いた木村大作。黒澤組の撮影助手としてキャリアをスタートし映画人生60年目という節目の年に、初の時代劇に挑みました。全編ロケーションによって、観るものの心を揺さぶる力強い自然、美しい四季がフィルムに焼き付けられました。
主演は、幅広い世代から絶大なる支持を受ける岡田准一。共演には西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子、富司純子、奥田瑛二ら日本を代表する豪華俳優陣が集結しました。
享保15年。かつて藩の不正を訴え出たが認められず、故郷・扇野藩を出た瓜生新兵衛(岡田准一)は、連れ添い続けた妻・篠(麻生久美子)が病に倒れた折、彼女から最期の願いを託される。
「采女様を助けていただきたいのです……」と。
采女(西島秀俊)とは、平山道場・四天王の一人で新兵衛にとって良き友であったが、
二人には新兵衛の離郷に関わる大きな因縁があったのだ。
篠の願いと藩の不正事件の真相を突き止めようと、故郷・扇野藩に戻った新兵衛。
篠の妹・坂下里美(黒木華)と弟・藤吾(池松壮亮)は、戻ってきた新兵衛の真意に戸惑いながらも、凛とした彼の生き様にいつしか惹かれていくのだった。
散り椿が咲き誇る春——
ある確証を得た新兵衛は、采女と対峙することになる。そこで過去の不正事件の真相と、切なくも愛に溢れた妻の本当の想いを知ることになるのだった……。
しかし、その裏では大きな力が新兵衛に迫っていた——。
出会いや別れがきっかけで、歯車が回りだすように新しい物語が始まることは現実の世界でも起こるものだが、この作品に登場する瓜生新兵衛(岡田准一)も最愛の妻・篠(麻生久美子)との別れを機に自分の運命が動き出した一人のようだ。
藩の不正を訴え、故郷である扇野藩を追放された瓜生新兵衛。妻の最期の願いは「親友を助ける」こと。
親友・榊原采女 (西島秀俊)は同じ道場で腕を磨きあったライバルであり恋敵。新兵衛が藩を去るきっかけとなった不正事件にも関わりを持つ因縁の相手。
本作は全体的に新兵衛にとっての「篠がいない世界」として描かれているのか、重く哀しげなトーンになっている。
篠への強い愛が新兵衛を行動へと突き動かしていることがひしひしと伝わってくる。物静かで多くを語ることはないが、妻との約束を果たそうという強い意思と、大切な人を失った喪失感が混ざりあったような複雑な心情が佇まいから感じられた。
ストーリーは過去の不正事件の真相に迫りながら、同時に篠の願いの真意を知ることになっていく。その過程で描かれる道場の仲間同士の友情であったり、篠の優しさや愛情の深さがとても美しく見えた。
あまりに美しく、現実的に見えなかった自分が悲しい。劇中登場する典型的な悪役のほうが身近に感じてしまい、余計に悲しくなってしまった。
時代劇作品の花形である立ち回りもインパクト満点。時に芸術的で、時に本能むき出しの生々しい殺陣は、人間ドラマの要素が強い作品中で強い存在感を示していた。
また、演者の背後で鮮やかに移り変わる四季が印象に残る。ジリジリとした夏の暑さが視覚にも伝わってくる竹林や、障子越しに映り込む紅葉。一面の雪景色の後には、タイトルにもなっている「散り椿」が咲く春が訪れる。
日本の原風景、美しい四季、内面の美しさを描いており、まさに木村大作監督が目指した「美しい時代劇」だった。
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