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幸せを紡いでいく大人たちの、アンサンブルムービー「幼な子われらに生まれ」あらすじ 感想

「普通の家族」を築けない、不器用な大人たちの愛すべき物語。

血のつながらない家族、血のつながった他人-つまずき、傷つきながらも幸せを紡いでいく大人たちの、アンサンブルムービー

作品紹介

数々のベストセラーを手がけている直木賞作家・重松清が1996年に発表した傑作小説「幼な子われらに生まれ」。『ヴァイブレータ』『共喰い』などの脚本家・荒井晴彦が重松と映画化の約束を交わし、その脚本が『しあわせのパン』『繕い裁つ人』などで幸せの瞬間を繊細に、丁寧に紡いだ映画で多くの観客の心に感動を届けてきた三島有紀子の手に渡り、ついに映画化が実現した。

台本を重視しながらも、役者同士のその場面その場面での新鮮な感覚を大事にし、ドキュメンタリー手法を使った撮影と、実力派であり個性派であり、日本を代表する役者陣が見事にぶつかり合い、観る者さえも家族の一員であるかのようなリアリティーで物語に引き込んでいく。血のつながらない家族、血のつながった他人がそれでも大事にしたいと思う人と幸せを紡いでいく、希望の物語。

ストーリー

バツイチ、再婚。一見良きパパを装いながらも、実際は妻の連れ子とうまくいかず、悶々とした日々を過ごすサラリーマン、田中信(浅野忠信)。妻・奈苗(田中麗奈)は、男性に寄り添いながら生きる専業主婦。キャリアウーマンの元妻・友佳(寺島しのぶ)との間にもうけた実の娘と3カ月に1度会うことを楽しみにしているとは言えない。

実は、信と奈苗の間には、新しい生命が生まれようとしていた。血のつながらない長女はそのことでより辛辣になり、放った一言―「やっぱりこのウチ、嫌だ。本当のパパに会わせてよ」。今の家族に息苦しさを覚え始める信は、怒りと哀しみを抱えたまま半ば自暴自棄で長女を奈苗の元夫・沢田(宮藤官九郎)と会う決心をするが・・・。

試写の感想

なんとも切ないホ―ムドラマだ。

夜の住宅街に浮かぶ無数の窓明かりが、とても美しく尊く見えてくる。この一つ一つの明かりの下で、どのような家族が暮らして、どのような生活を営んでいるのか、そんな思いをしみじみと考えさせる秀才だ。

家族というものが、これほど壊れ易く、危ういものであることを、痛烈に投げかけてくる。親と子が一つの家族として生活してゆくことが、どれほど大変なことか。

血のつながっていない、妻の連れ子の娘との距離をなんとか縮めたい男(浅野忠信)の心情が、痛々しくやるせない。そんな男に娘はなおも、「本当のお父さんに会わせて」と迫る。もう投げ出す寸前になりながらも、元父親(宮藤官九郎)を探し出し、「娘と会ってやって欲しい」と懇願する男の姿には頭の下がる思いだ。しかも、元父親からは娘に会うことで金銭まで要求される始末だ。

このごく常識的な男が、必死なって家族を維持してゆく姿を、監督の三島有紀子は、ドキュメンタリータッチで描いている。何か物語を作るのではなく、日常のエチュードを断片的に重ねていくことで、よりリアリティーが感じられ、この家族の苦悩が広く普遍的になった。

新しい生命が誕生することでラストを迎えるが、この家族がこの先、平穏に暮らしてゆくかと言えば、その保障はなく、一時の休戦を得たぐらいにしか思えない。

窓明かりを消さない戦いは、また始まるだろう。静かだが、胸に染みる作品だ。

監督:三島有紀子
原作:重松清(幻冬舎文庫)
出演:浅野忠信、田中麗奈、寺島しのぶ、宮藤官九郎
上映時間:127分
配給:ファントム・フィルム
公式サイト
(c)「幼な子われらに生まれ」製作委員会

投稿者プロフィール

植田 研一
昭和26年生まれ。若い時に演劇を志したが、夢破れテレビ界でサラリーマン生活を送る。昨年退職し、現在隔月でひとり語りを開催している。
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