スリラーの鬼才健在をアピールした「ヴィジット」からわずか1年あまり、M.ナイト・シャラマンがさらに鮮烈な衝撃作を放つ!恐怖と緊張と興奮のスパイラルを織りなし、迫ってくる「スプリット」。それはまさにシャラマンでなければ決して生み出すことが出来ない強力なスリラーだ。
女子高生3人組が正体不明の男に拉致される導入部からして、まずショッキング。監禁された彼女たちが必至の抵抗を試みる様は息詰まるようで、その一挙一動から目が離せない。一方で、ほどなくして観客はこの男には23もの人格があることを知り、少女たち、そして、治療に当たる女性医師とともに、男の心の闇を覗き見ることになる。
そこから醸し出される緊迫感は、驚くべ24番目の人格の発覚によって膨れ上がり、クライマックスでそれはさらなる驚愕へと発展。少女たちを誘拐・監禁したのは?彼女たちを助けようとしてるのは、いったい何番目の〝彼〟なのか?
なんといってもインパクトがあるのは、この男、ケビンのキャラクターだ。神経質で潔癖症の青年デニスから、社交的で人懐っこいナイスガイのバリー、9歳の無邪気な少年ヘドウィグ、さらにはエレガントな女性、パトリシア等々へ、一人の人間のなかで激しく入れ替わる人格。心を病んだあげく凶行に走る犯罪者ではあるが、そうなった理由・動機が劇中ではしっかり描かれており、複雑で深みのあるキャラクターを印象づける。
「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクターや、「ダークナイト」のジョーカーにも匹敵するスーパーヴィランの誕生!そういっても過言ではないのは、人智を超えた暴走がくりひろげられるクライマックスをみれば納得がいくに違いない。演じるジェームス・マカヴォイは、「X-MAN」シリーズのような大作から「つぐない」等の文芸作まで幅広いジャンルをこなし、演技派として広く認められているアクターだが、万華鏡のようにキャラクターを変え、なおかつカリスマ性をも漂わせる演技は圧巻。映画史に残る〝ひとり24役〟といえよう。
ケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)は、過去のいたましい体験によって周囲に心を閉ざし、孤独とともに生きる女子高校生。その日、人気者の旧友クレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)のバースデーパーティーに呼ばれたのは、単なるお情けで、気が進まぬまま出席した彼女自身もそれを理解している。しかし、ケイシーの真の受難は、そのあとに待っていた。車で送ってもらう途中、同乗していたクレアや級友マルシア(ジェシカ・スーラ)ともども彼女は正体不明の男によって眠らされ、拉致される。。。
目覚めると、そこは殺風景な密室。ドアを開けて入ってきた男は見るからに神経質で、変質者にような雰囲気を漂わせていた。このままでは命が危ない。どうすれば、この密室から逃れられるか?ケイシーとクレア、マルシアが頭をひねっていた矢先、再び姿を現したその男は女性の洋服を着て、女言葉で彼女たちに話かけてくる。また、別の時は、屈託のない口調でヘドウィクと名乗り自分は9歳だと話す。
この男は ケビン(ジェームス・マカヴォイ)はDIDI(解離性同一性障害)のため、週に一度精神医学を専門とする女医フレッチャー(ベティ・バックリー)のセラピーを受けていた。彼の中には実に23もの人格が潜んでおり、セラピーを受ける時はバリーという人当たりのいい人格でやって来る。一方のフレッチャーはバリーから聞いた他の人との共生に、研究者として強い関心を抱いていた。ケビンのケースは特殊で、人格に応じて体質も変わる可能性も確認できる。精神医学の分野の新たな境地に切り込めるかもしれない。そんな好奇心も命取りになるとは、この時フレッチャーは思いもしなかった。。。
誘拐・監禁・脱出サバイバル、そしてスリラー。M・ナイト・シャマランに限界はない。 迫りくる恐怖と緊迫したシーンに何度もスクリーンから視線を外したくなった。 主人公の人格は23人ともう1人。24人の多重人格といえば、ダニエル・キイスのノンフィクション本「24人のビリー・ミリガン」という作品を思い出す。 主人公を務めるジェームズ・マカヴォイは、老若男女ある人格をその存在と空気感で変化させる。あ、違う人だ・・と話し方を聞く前にわかる。次は何が起こるのかと現れた人格と共に緊迫感も変化していく。
連れ去られた女子高生3人の中の一人ケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)の恐怖心の払拭と行動力には完敗した。普段、いざという時に積極的になれない私には、わざわざ自分を危険に追い込む彼女に、お願いだから安全なところで静かにしていてほしいと思った。 幼少のケイシーを演ずる子役の演技も、大人も後ずさりするほどの存在感を醸し出している。お人形のような可愛さの中には成長しても変わらない心の強さがあった。
高校生になったケイシーがなぜこんな性格なのかと理解できた。 さらに、Dr.カレン・フレーッチャー演ずるベティ・バックリーの女優として、そして精神科カウンセラー役としてもプロフェッショナルな演技は、観客のメンタルをも潮の満ち引きのように動かしていく。
人はトラウマで強くも弱くもなる。 変身願望や美容整形もまた、今の自分の否定ではなく、本来の自分を呼び起こしているのかもしれない。 単なるスリラーでもホラーでもない、24人の心と体を持った彼の伝えたかった事は、映画のラストに明かされる。
M・ナイト・シャマラン
M・ナイト・シャマラン
マイケル・ジオキラス
パコ・デルガド
ルーク・シアロキ
ウエスト・ディラン・ソードソン
2017年5月12日(金曜日)
2016年
アメリカ
117分
風間 綾平
G
東宝東和
©Universal Studios.