「終点駅」はやがて「始発駅」になる。
誰の人生のなかにも終点と起点があり、終わりだと思っていた場所が始まりの場所になる──。
『起終点駅 ターミナル』は、果ての街・釧路で人生の終わりへと向かっていたはずの男と女が出会い、孤独を分かち合い、そして再びそれぞれの人生の一歩を歩きはじめる感動の物語。原作は2013年に「ホテルローヤル」で第149回直木賞を受賞しベストセラー作家となった桜木紫乃が2012年に発表した「起終点駅 ターミナル」。6作からなる短編集の表題作の映画化だ。
主人公は司法では罰せられない罪、誰にも裁いてもらうことのできない罪を抱えて生きる弁護士の鷲田完治。演じるのは名実ともに日本を代表する俳優、佐藤浩市。2015年は『愛を積む人』『HERO』『アンフェア』など主演・出演作の公開が続く彼が、人生の悔恨と人間の狡さや汚さを内包した、とりわけ難しいこの役柄で新境地に挑んでいる。鷲田と出会い、救われ、新たな人生に希望を見出していくヒロイン、椎名敦子役には本田翼。青春映画『アオハライド』で真っ直ぐに人を好きになる女子高校生を演じた彼女が本作では打って変わり、孤独を背負い人生に迷う女性というシリアスな役で女優として新しい一面をみせる。また、完治のなかに“過去の人”として、“愛した女性”として生き続ける結城冴子役に尾野真千子。ほか中村獅童、和田正人、音尾琢真、泉谷しげるなど実力派キャストが脇を固める。そして全編を彩る音楽は、たおやかな情感で観客の心を包み込む小林武史。監督は『はつ恋』『深呼吸の必要』などみずみずしい感性で人間を描き続ける篠原哲雄。本作では、愛を失い、心を閉ざし立ち止まっていた男と女の楔(くさび)が解かれ旅立つ姿を丁寧に描いていく。
撮影は原作と同じく北海道・釧路にて1ヶ月以上にわたってロケを敢行。愛した人と逢瀬を重ねた海沿いの街、その彼女が消えていった雪景色、裁判所へつづくゆるやかな坂道、そして駅から駅へどこまでも続く線路──。そんな北海道・釧路の美しく悲しく力強い情景とともに描かれる、今を生きる2人の男女の未来への一歩。その一歩はすべての人の始発駅になる。
男は、愛した女の死から逃れるように果ての街の駅に降り立った。
北海道の旭川で裁判官として働く鷲田完治(佐藤浩市)のもとに、学生時代の恋人だった結城冴子(尾野真千子)が被告人として現れる。彼女に執行猶予付きの判決を与えた完治は裁判後、冴子が働くスナックに通い逢瀬を重ねるようになるが、かつて愛し合った男と女の再会の時間は限られていた。2年の北海道勤務を終え、妻子の待つ東京へ戻る日が近づいていた完治だったが、彼はすべてを捨てて冴子と共に暮らしていこうと決める。けれど、冴子はその想いに応えることなく完治の目の前で自ら命を絶ってしまうのだった。
女は、果ての街で孤独に生きる男から未来への切符を受け取った。
それから25年。完治は誰とも関わることなく釧路で国選弁護人としてひっそりと生きていた。それはまるで愛した女性を死に追いやってしまった自分自身に裁き罰を課すようでもあった。そんなある日、弁護を担当した若い女性、椎名敦子(本田翼)が完治の自宅を訪ねてくる。ある人を探して欲しいという依頼だった。個人の依頼は受けないと心に決めて生きてきた完治だったが、家族に見放され誰にも頼ることなく生きてきた 敦子の存在は、ずっと止まったままだった完治の心の歯車を少しずつ動かしていく。敦子もまた完治との出会いによって、自分の生きる道を見出していくのだった。
そして、人生の終着駅だと思っていた釧路の街は未来へ旅立つ始発駅となり、2人それぞれの新しい人生が動き出そうとしていた。
何かの拍子で歯車がずれて、愛する女性を目の前で失ってしまった。
法で裁けぬ罪の意識から釧路で国選弁護人として、ひっそりと暮らしている主人公の鷲田が、弁護を担当した敦子と関わることで互いの気持に変化が出る。
道民には馴染みの深いザンギ(鶏の唐揚げ)や、秋の味覚いくらの醤油漬け、鷲田が作る料理はどれも美味しそうだ。
過去を捨てた男と女が、向き合って食事を共にしお互いの一片を知ることで、新たな人生を始めるきっかけとなる。
だから出会いは素晴らしい。どんな状況でも他人との関係は捨てず、ただ生きていくことだけが大事だとこの映画で改めて知る。
釧路の美しい風景と食を織り交ぜながら心に残る音楽と映像。
道民は必見の『起終点駅 ターミナル』
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佐藤浩市 本田翼
中村獅童 和田正人 音尾琢真 泉谷しげる 尾野真千子
原作:桜木紫乃 「起終点駅 ターミナル」(小学館刊)
音楽:小林武史
脚本:長谷川康夫
監督:篠原哲雄
配給:東映
(C)桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会