
『木挽町のあだ討ち』は、永井紗耶子による同名小説を原作とした時代劇映画である。
原作は直木賞・山本周五郎賞を受賞した人気小説で、「仇討ち」という古典的な題材を、ミステリー構造で描いた作品として高い評価を受けてきた。
映画化にあたっては、原作の持つ多層的な語りの構造と、人の証言によって物語が形づくられていく構成に着目し、映像作品として再構築。
監督・脚本を務めた源孝志は、芝居小屋が立ち並ぶ江戸・木挽町という舞台設定を生かし、ひとつの事件をめぐる人々の視線や語りを通して、仇討ちの物語がどのように作られていくのかを丁寧に描いている。
時代劇でありながら、単なる勧善懲悪ではなく、「語られる物語」と「隠された真実」のズレを描く構成が、本作の大きな特徴となっている。

江戸・木挽町。
歌舞伎芝居小屋「森田座」で芝居が終わった直後、雪の降る夜に若衆・菊之助が父の仇を討つ事件が起こる。
多くの人々に目撃されたその仇討ちは、美談として語り継がれていく。
それから一年半後。
菊之助の縁者と名乗る侍・加瀬総一郎が、事件の真相を探るため木挽町を訪れる。
芝居小屋に関わる人々の証言をたどる中で、語られてきた物語とは異なる事実が、少しずつ浮かび上がっていく。

この映画は、原作が小説である。
ただし内容は、いわゆる「江戸時代の時代劇」という枠組みには収まらない。
仇討ちを題材にしながらも、本作が描いているのは、真実が少しずつ明らかになっていく過程そのものだ。
物語の中心となるのは、仇討ち事件の真相を探る侍・加瀬総一郎である。
柄本佑の演じる加瀬は、感情を前に出さない。

彼は事件に直接関わった人々から話を聞き、事実を一つずつ積み上げていく。その姿は、刀を振るう武士というよりも、まるで現代のFBIプロファイラーのようだ。ひょうひょうとした佇まいや親しみやすさも、捜査官役に適している。
証言を集め、矛盾を見抜き、語られなかった部分に目を向ける。その捜査のプロセス自体が、この映画の大きな魅力になっている。
木挽町の人々は、横のつながりが非常に強い。
寄り合いの文化や、顔の見える関係性の中で、互いに助け合いながら生きている。その「親切さ」が、同時に事件の真相をうまく覆い隠す装置としても機能している点が興味深い。
誰もが悪人ではない。けれど、仲間同士の横のつながりによって、「真実を表に出さない」空気が生まれていく。その構造に、現代社会にも通じるリアリティを感じた。

芝居小屋という場所も、本作にとって重要な存在だ。
芝居に関わる人々が集まるこの空間は、物語を演じる場所であると同時に、事実を隠し、作り替える場所でもある。
少しずつ積み重ねられた選択や沈黙が、ひとつの「物語」を完成させていく。
散りばめられた伏線が少しずつ回収されていく構成は、時代劇でありながら非常に現代的だ。
単純に感動するとか、心に刺さるといったタイプの映画ではない。
むしろ、「ああ、そういうことだったのか」と腑に落ちる瞬間が重なっていく。その感覚こそが、この作品の持ち味だと思う。
渡辺謙をはじめとする周囲のキャストも、それぞれが強い個性と存在感を放っている。
誰か一人が突出するのではなく、登場人物全員が物語の歯車としてきちんと機能している。そのバランスの良さも印象的だった。
また、物語の背景には、江戸時代ならではの厳しさも丁寧に織り込まれている。
家督を継ぐことの重さ、武家社会の閉塞感、幕府との関係性。
そうした時代の制約が、人々の選択や沈黙の理由として静かに効いてくる。
この映画は、観客を最初から信用しすぎない。
むしろ「どうぞ騙されて見てください」と言っているような作品だ。
疑いながら、考えながら、そして最後にもう一度最初を振り返りたくなる。
その体験こそが、『木挽町のあだ討ち』の最大の魅力である。見終えたあと、静かに余韻が残り、物語の細部を思い返したくなる一本だ。

原作:永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮文庫刊)
監督・脚本:源孝志
出演:柄本佑
長尾謙杜 北村一輝 瀬戸康史 滝藤賢一
山口馬木也 愛希れいか イモトアヤコ 野村周平
高橋和也 正名僕蔵 石橋蓮司 沢口靖子
渡辺謙
配給:東映
公式サイト
上映時間: 120分
Ⓒ2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会
Ⓒ2023 永井紗耶子/新潮社
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