『私を離さないで』などで知られるノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロの鮮烈な長編デビュー作『遠い山なみの光』を、『ある男』(22)で第46回日本アカデミー賞最優秀作品賞含む最多8部門受賞を果たした石川慶監督が、広瀬すず主演、二階堂ふみ、吉田羊共演で映画化。
本作の主人公・悦子を演じるのは、映画やドラマで幅広く活躍し、その高い演技力と表現力で知られる広瀬すず。
悦子が長崎にいた頃に出会う、謎めいた女性であり幼い娘と暮らす佐知子役には二階堂ふみが、そして悦子が長崎を離れイギリスで暮らす1980年代の姿を吉田羊が演じ、広瀬すずが演じる1950年代の悦子の約30年後を体現します。
さらに、悦子(広瀬すず)の夫で、傷痍軍人の二郎役を松下洸平が演じ、二郎の父であり、かつて悦子が勤務していた学校の校長でもある緒方役には三浦友和をキャスティング。
そのほか、日本パートには柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜(子役)が出演。
イギリスパートで悦子(吉田羊)の娘・ニキ役を演じるのは、オーディションで選ばれたカミラ・アイコ。豪華実力派キャストが集結し、物語を彩ります。
日本人の母とイギリス人の父を持ち、ロンドンで暮らすニキ。大学を中退し作家を目指す彼女は、執筆のため、異父姉の死以来足が遠のいていた実家を訪れる。
母の悦子は長崎で原爆を経験し、その後イギリスに渡ってきた。しかし、ニキは母の過去をほとんど知らない。
夫と長女を亡くし、想い出の詰まった家で一人暮らしていた悦子。数日間を共にする中で、彼女は最近よく見るという「夢」について語り始める。
それは、まだ悦子が長崎で暮らしていた頃に知り合った佐知子という女性と、その幼い娘の夢だった――。
ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロ。作品は未読だが、自身の出生地である長崎を舞台にした長編小説のデビュー作が映画化されたということで、興味深く鑑賞した。
日本・イギリス・ポーランドの3カ国による国際共同製作で、監督は石川慶。前作「ある男」と同様、独特の静けさと妖しさを纏いながら物語が進んでいく。
1980年代のイギリス。日本人の母とイギリス人の父の間に生まれ、ロンドンで暮らすニキ(カミラ・アイコ)は作家を志して大学を中退し、疎遠になっていた母・悦子(吉田羊)の暮らす実家を訪れる。かつて長崎で原爆を経験した悦子の話は、ニキにとっても観客にとっても非常に興味深いものだった。
悦子が近ごろよく見るという夢。それは1950年代の長崎で知り合った佐知子(二階堂ふみ)と、その幼い娘の夢である。そこには、当時の女性にとって当たり前とされた精神的抑圧や、戦後の急速な価値観の変化に対する戸惑いが見え隠れする。悦子(広瀬すず)と、傷痍軍人である夫の二郎(松下洸平)の姿からも、その時代背景が伝わってくる。
自立や夢を追い求める女性は周囲に理解されにくく、生きづらかったに違いない。さらに、生まれてくる子どもに原爆の影響があるのかどうかという未知の不安もつきまとう。自由に生きているように見える佐知子にも、苦労や焦燥、苛立ちがあり、見ていて胸が苦しくなった。
自分の想いと世間の目。絶望と希望が交錯するなかで、もがき苦しみながらも生きていく人間の強さも感じられる。
また、佐知子のファッションや洗練された家具は、彼女の置かれた状況とのアンバランスさが際立ち、何がきっかけでどう転ぶかわからない当時の不安定さを象徴しているようで印象的だった。
出 演 : 広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、カミラ・アイコ、柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜、松下洸平 / 三浦友和
監督・脚本・編集:石川慶 『ある男』
原作:カズオ・イシグロ/小野寺健訳「遠い山なみの光」(ハヤカワ文庫)
配給:ギャガ
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