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小樽ロケ『海の沈黙』11月22日公開 作品レビュー

作品紹介

「前略おふくろ様」「北の国から」「やすらぎの郷」など数々の名作を手がけてきた巨匠・倉本聰が長年にわたって構想し、「どうしても書いておきたかった」と語る渾身のドラマがついに映画化!

世界的な画家の展覧会で起こった贋作事件。この絵を描いたのは一体、誰なのか? 同じ頃、北海道で全身に刺青の入った女の死体が発見される。このふたつの事件の間に浮かび上がった男。それは、かつて新進気鋭の天才画家と呼ばれるも、突然人々の前から姿を消した津山竜次だった。

人々の前から姿を消した天才画家が秘めてきた想い、美と芸術への怨念、そして忘れられない過去が明らかになる時、至高の美と愛の全貌がキャンバスに描きだされる。

孤高の画家・津山竜次を演じるのは、本木雅弘。主演を務めた映画『おくりびと』はオスカーに輝き、『日本のいちばん長い日』『永い言い訳』、大河ドラマ「麒麟がくる」「友情〜平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」〜」など出演作が発表されるたびに大きな注目を集め、日本を代表する名優のひとりとして不動の地位を獲得した本木が、キャリア初の倉本作品に出演。多くを語らず、ひたすらキャンバスにあふれる想いをぶつける男の苦悩と情熱を鮮烈な演技で体現する。

小泉今日子が竜次のかつての恋人で、現在は画家の田村の妻、安奈を演じるほか、中井貴一が竜次の“番頭”としてその活動を見守る謎めいた男スイケンを、石坂浩二が安奈の夫でもある画家・田村を、そして仲村トオルが贋作事件を追う美術鑑定の権威・清家を演じる。さらに全身に刺青のある謎めいた女性・牡丹役で清水美砂、竜次を慕うバーテンダー・あざみ役で菅野恵が出演。長年にわたって倉本聰作品、そして日本映画界を支えてきた豪華キャストが集結した。

監督を務めたのは、『沈まぬ太陽』や『Fukushima 50』など重厚な演出と人間ドラマで高い評価を集める若松節朗。本作でも緊迫のドラマ、深遠な愛、痛切な人間模様をスクリーンに刻みつける。撮影は都内だけでなく、多くの倉本作品の舞台になっている北海道でも行われ、小樽での大規模なロケ撮影を敢行。運河の美しい風景の中で重厚な人間ドラマが描き出される。

人間にとって「美」とは何か? 私たちは人生の終わりに何を見つけるのか? 観客の心を揺さぶり続けてきた作家・倉本聰が描く集大成的作品が幕を開ける。

ストーリー

世界的な画家、田村修三(石坂浩二)の展覧会で大事件が起きた。会場を訪れた田村が報道陣の前で、展示作品のひとつが贋作だと訴えたのだ。主催者は隠蔽を画策するが、田村が会見を開いたことで事実が明らかになり報道は加熱。贋作を保有していた美術館の館長・村岡(萩原聖人)は、田村の妻・安奈に無実を訴えた後、自ら命を絶った。村岡は遺書で遺された者たちに訴える。「私はあの絵に心底惚れ込んでおりました。それはあの絵が贋作であると指摘された今も変わるものではありません」

作者が違うと判明した時、その評価が変わるのだとしたら、“美”とは一体、何なのか?

安奈は村岡の葬儀の席で、かつての知人で中央美術館の館長の清家(仲村トオル)と再会する。清家は田村の依頼を受けて、贋作の謎を追っていた。海外で発見された極めて完成度の高い贋作と、今回の贋作は同じ者の筆である可能性が高いという。この絵を描いたのは一体、誰なのか?

同じ頃、北海道・小樽で全身に刺青の入った女・牡丹(清水美砂)の死体が発見される。田村の過去を知る“美術愛好家”を名乗る謎の男スイケン(中井貴一)もまた小樽にいた。若いバーテンダーの女性・あざみ(菅野恵)をつれて彼が向かった先にいたのは、大きなキャンバスを前に創作を続ける男、津山竜次(本木雅弘)だった。彼はかつて新進気鋭の天才画家と呼ばれるも、ある事件を機に人々の前から姿を消した。

かつての竜次の恋人だった安奈は、清家から竜次の消息を知り、小樽へ向かう。もう会うことはないと思っていた竜次と安奈は長い時を経てついに小樽で再会を果たす。

しかし、病は竜次の身体を蝕んでいた。残り少ない時間の中で彼は何を描くのか? 何を思うのか? 彼が絵画と美にかける想いとは?

作品レビュー

映画『海の沈黙』は、倉本聰の美学が詰まった作品で、観る者を深い思索へと導く。物語は贋作事件と謎の死体というミステリアスな始まりから、次第に過去に囚われた大人たちが美を追い求める人間ドラマへと進展していく。

主演の本木雅弘は、かつての天才画家・津山竜次の栄光と苦悩を見事に演じ、その存在感は圧倒的だ。竜次は過去の影に苦しみながらも、美への執念を燃やし続ける孤高のアーティストであり、その姿が観客の心を揺さぶる。

小泉今日子や中井貴一といった実力派キャストも、それぞれの役に深みを加え、物語に多層的な魅力を与えている。特に、小泉が演じる安奈との再会シーンでは、過去と現在が交錯する中で抑えた情熱が静かに燃え上がる瞬間が印象的だ。

さらに、本木雅弘の演技だけでなく、彼を老けさせる特殊メイクにも注目したい。実際には若々しい外見の本木だが、本作では初老の画家の雰囲気を上手く出しており、年齢層が異なるキャストたちとも見事に馴染んでいる。

映像美もこの映画の大きな魅力の一つだ。特に小樽の寒々しい海の風景が効果的に使われ、物語に漂う孤独感や緊張感を一層際立たせている。若松節朗監督は、この冷たい風景を通して「美とは何か」という問いを観客に投げかけている。風景の美しさとその対比は、映画でありながらアート作品のように感じられるほどだ。

『海の沈黙』は、単なるサスペンスにとどまらず、人間の本質を深く掘り下げる作品となっている。贋作事件や謎の死体を軸にしながらも、物語は「美」と「愛」のテーマを追求している。倉本聰が描くこの作品は、多くの観客の心に深く刻まれ、長く記憶に残るだろう。

『海の沈黙』11月22日公開


キャスト: 本木雅弘
小泉今日子 清水美砂 仲村トオル 菅野 恵  / 石坂浩二
萩原聖人 村田雄浩 佐野史郎 田中 健 三船美佳 津嘉山正種
中井貴一
原作・脚本:倉本 聰
監督:若松節朗
2024年|日本映画|112分|映倫区分G         

配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト

©2024 映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD

投稿者プロフィール

佐藤 友美
2013年にHokkaido Movie Review・新作映画の最速レビューサイトを立ち上げ『映画レビューサッポロ from HMR』として2017年10月にwebを一新。
旅好きで映画ロケ地のツアー取材が得意。FMラジオでの映画紹介を経てからの映画ライターと本Webサイトのデザインを担当。
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