3人のドラァグクイーンを描いた映画『プリシラ』(94) 『3人のエンジェル』(95)からはや30年弱。LGBTQ+の人々の意識はもちろん、社会とマイノリティの関係性も変化した令和の日本で、3人のドラァグクイーンがあるミッションを持って旅をするとどうなるか? 物語の舞台は喧噪な都会から自然豊かな地方都市へ。旅路の中で人の優しさに触れ、それぞれが人生の美しさを見つけ出していく。それを描いたのが『ひみつのなっちゃん』だ。
日本において、ゲイカルチャーが一般の人の目に触れる機会は、一昔前までは夜の街かテレビの中だけ。だが、今は違う。ドラァグクイーンのタレントがほぼ毎日テレビなどのメディアに引っ張りだこで、ゲイであることを公表して活動するYouTuberも無数に活躍するようになった。
一見、LGBTQ+の人権は欧米で進んだそれと同じようにみえるが、実はそうではなく、社会はもちろん、当事者自身にも「ひみつ」を明かしてはいけないという、呪いのように根深いわだかまりがある。そんな日本社会の変化、それでもなお頑なに変わらないものは何か。本作では、3人のドラァグクイーンの珍道中を通して、それらをあぶりだすことに成功している。
東京から郡上八幡へ――!
亡き友・なっちゃんの最期のショーお葬式に向けて
“ひみつ”のミッションがはじまる!
ある夏の夜、なっちゃんが死んだ。
つまらない冗談を言っては「笑いなさいよ!」と一人でツッコミを入れていたなっちゃんは、新宿二丁目で食事処を営むママ。
その店で働くモリリンはドラァグクイーン仲間のバージンを呼び出す。昔、バージンとなっちゃんは、ドラァグクイーンを通じて旧知の仲。モリリンはそんなバージンだからこそ、なっちゃんの本名や実家の住所などを知っているものと思っていたのだ。
ところが、病院に駆けつけたバージンもなっちゃんの素性は何も知らなかった。葬儀業者を相手にしどろもどろの2人は、とりあえずその場を立ち去り、ドラァグクイーン仲間でTVタレントになったズブ子を呼び出して作戦会議をする。
3人はなんとかしてなっちゃんの素性を探ろうと奔走するが、そのときに気づいた重大な事実。なっちゃんは家族にはオネエということもドラァグクイーンをしていることも秘密。
そして、なっちゃんの自宅には彼の素の生活が残っていること。彼らはあわててなっちゃんの自宅アパートに忍び込み、証拠隠滅を企てる。ところがそのとき、なっちゃんの亡骸を引き取りに上京した彼の母・恵子が。慌てた3人は、ルームシェアをしているとウソをつき、その場をやり過ごそうとするが、上手に騙しすぎたせいで、恵子から故郷の岐阜県郡上市で行う葬儀に参列するよう誘われてしまう。
誘いを断れず、なっちゃんとのお別れもしたい3人は、郡上八幡へ向かうことに……。
急逝したドラァグクイーンで新宿二丁目のママ・なっちゃん(カンニング竹山)の素性を知るため、なっちゃんの店のモリリン(渡部 秀)が仲間のバージン(滝藤賢一)と、タレントのズブ子(前野朋哉)が、なっちゃんのプライベートを探すことから物語は始まる。
リーダー格のバージン、優しくてイケメン見えするモリリン、ユニークな人気タレント・ズブ子という仲間三人の掛け合いが可笑しい。
後に、なっちゃんの母・恵子(松原智恵子)と出会い、なっちゃんの葬儀が行われる故郷の岐阜県郡上市へ車で向かう。ドラァグクイーンのロードムービーという異色ものだが、出会いと笑いあり涙ありの人情物語だ。
主役のバージンを務める滝藤賢一の美しい立ち振舞いや繊細な表情、女性らしいファッションに思わず見惚れてしまう。モリリンとズブ子の可愛らしいドラッグクイーンショーが見どころ。
上映時間97分に、三人の個性豊かなキャラクターと周囲の人々の優しさがギュッと詰まった、濃密で楽しい映画となっている。
キャスト: 滝藤賢一
渡部 秀 前野朋哉 カンニング竹山
豊本明長 本多 力 岩永洋昭 永田 薫 市ノ瀬アオ アンジェリカ
生稲晃子 菅原大吉 ・ 本田博太郎
松原智恵子
脚本・監督:田中和次朗
主題歌:「ないしょダンス」渋谷すばる
2023年/日本/カラー/97分/ビスタサイズ/5.1ch
配給:ラビットハウス 丸壱動画
公式サイト
©2023「ひみつのなっちゃん。」製作委員会