人生の選択に悩みながらも成長するアン・ランの姿や、揺れる姉弟の絆が観客の心を掴んだ本作。中国ではSNSで若者を中心に、「#SISTERをどう評価するか」「#個人の価値は家族の価値より大切なのだろうか?」というハッシュタグで感動と共感の熱い声が爆発的に広がり、全土で社会現象を巻き起こした。
さらにコロナ禍の21年に公開されるや2週連続興収No.1を獲得し、同年公開の世界的ヒット作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を超え、興収171億円を記録。中国版アカデミー賞とされる金鶏奨ほか、国内の映画賞で女優賞をはじめ数々の賞を受賞し、Rotten Tomatoesでも満足度100%を叩き出した。
アン・ランを演じるのは岩井俊二監督作『チィファの手紙』(20)に出演の新世代スター、チャン・ツィフォン。弟役のダレン・キムは本作が映画初出演にして、観客が号泣するほどの名演を見せた。監督は本作が長編2作目となるイン・ルオシン、脚本はヨウ・シャオイン。新鋭の女性作家のタッグで、揺れ動く“いま”の中国社会の背景にある一人っ子政策と家父長制の影に真正面から切り込んだ。
看護師として働くアン・ランは、医者になるために北京の大学院進学を目指していた。ある日、疎遠だった両親を交通事故で失い、見知らぬ6歳の弟・ズーハンが突然現れる。望まれなかった娘として、早くから親元を離れて自立してきたアン・ラン。
一方で待望の長男として愛情を受けて育ってきたズーハン。姉であることを理由に親戚から養育を押し付けられるが、アン・ランは弟を養子に出すと宣言する。養子先が見つかるまで仕方なく面倒をみることになり、両親の死すら理解できずワガママばかりの弟に振り回される毎日。しかし、幼い弟を思いやる気持ちが少しずつ芽生え、アン・ランの固い決意が揺らぎ始める…。自分の人生か、姉として生きるか。葛藤しながらも踏み出した未来への一歩とはー。
自己犠牲って才能かな
才能がない私がダメ?ー
若くして自立し、看護師として働きながら医者になるため北京の大学院進学を目指すアン・ラン。
ある日、疎遠だった両親が交通事故で亡くなり、共に暮らした事もない年の離れた幼い弟を突然預けられ彼女の人生設計は音を立てて崩れた。
正直、これを観るまで”一人っ子政策”はただ単に世界史で習ったというだけのものでしか無かった。
今は廃止されたものの、この人口抑制政策によってそこで生きる人たちに大きな影響を及ぼしただろう事は容易に想像出来る。
当時、2人目をもうけた家族には年収相当の数年分という罰金が科されたというその徹底ぶり。
家父長制が根付いていた中国で第一子が女子であった場合、長子をいなかった事にしたりいくつかの特例に該当するよう虚偽の申告をして次子をもうけるという世帯が多くみられたらしい。
つまり、一人っ子政策は深刻な男女比不均衡をもたらしたと言われている。
望まれなかった娘として早くから親元を離れたアン・ランと、待望の長男として親からの愛情を一身に受けて育ってきたズーハン。
あまりにも違う境遇は、決して映画の中だけの話ではないのだろう。
この作品が中国で相当な話題を集め多くの女性たちの共感を得たという事実がそれを物語っている。
アン・ランはただ単に弟の養育を押し付けられた事に憤っているわけではない。
自分の生まれてきた意味を見出そうとがむしゃらに生きてきた彼女は、散々苦しめられてきた”姉なら当たり前”という価値観を強要された事に傷付いているのだ。
同じように制圧されて来た側の伯母のアン・ロンロンがまた、当時の女性の立場を明確にしている。
彼女はまさに自己犠牲の塊で、そうならざるを得ない環境だったとは言え2人の考え方は余りにも違っているのだ。
どちらが正しいとも間違っているとも言えないこの問題だが、彼女たちの会話は胸を打ち思わず涙してしまった。
アン・アンとズーハン、そして伯母のアン・ロンロンと叔父のウー・ドンフォン。
最初こそそれぞれに思うところがあったが、憎めない人物ばかりで観終えた頃には4人のこれからの人生を応援したい気持ちになっていた。
監督:イン・ルオシン
脚本:ヨウ・シャオイン
出演:チャン・ツィフォン、シャオ・ヤン、ジュー・ユエンユエン、ダレン・キム
2021年/中国語/127分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:我的姐姐/日本語字幕:島根磯美
配給:松竹
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