75歳から自らの生死を選択できる制度<プラン75>――果たして、是か、非か。
映画監督・是枝裕和が初めて総合監修を務めたオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の一篇『PLAN75』を新たに構築、キャストを一新した、早川千絵監督のオリジナル脚本による、自身初の長編映画。超高齢化社会に対応すべく75歳以上が自ら生死を選択できる制度<プラン75>が施行され、その制度に大きく翻弄される人々の姿を描いた衝撃作。第75回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション「ある視点」部門にも選出されている。
夫と死別してひとりで慎ましく暮らす、角谷ミチ(倍賞千恵子)は78歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される。住む場所をも失いそうになった彼女は<プラン75>の申請を検討し始める。一方、市役所の<プラン75>の申請窓口で働くヒロム、死を選んだお年寄りに“その日”が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの瑶子(河合優実)は、このシステムの存在に強い疑問を抱いていく。また、フィリピンから単身来日した介護職のマリア(ステファニー・アリアン)は幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の<プラン75>関連施設に転職。利用者の遺品処理など、複雑な思いを抱えて作業に勤しむ日々を送る。
果たして、<プラン75>に翻弄される人々が最後に見出した答えとは―――。
“現在、世界が直面している人口の高齢化は人類史上例のないものである”
これは国連が2016年に発表したレポートの中で述べられている見解らしい。
我が国、日本はどうか。
日本の高齢化率(65歳以上)の推移は高齢化大国・中国を遙かに超えて世界No. 1の高齢化比率となっていて、これは海外でも類をみないほどの上昇率だというのだ。
上位だろう事は薄々感じてはいたが、世界No.1だったとはなかなかショッキングである。
自分が知らなかっただけなのだろうが、それにしては本気を出して対策を講じているようには感じられず今まで実感がなかった。
政策や選挙の公約として、「少子高齢化が云々」と聞いたことはあってもここ数年で何か具体的な進歩はみられたのだろうか。
コロナ禍という事もあり更なる少子化が進んだというのは新聞などで目にしたが、高齢化に対する動きとは何をすれば良いのだろう。そんな疑問が浮かんでしまう。
この映画で描かれているのは少子高齢化が一層進んだ近い将来、そこで生きる高齢者と彼等と関わる事になった若者の苦悩だ。
年齢による命の線引きというセンセーショナルな題材ではあるが、少子高齢化自体は実際に起こっている現実的な話。
問題視されながらも延ばし延ばしにされている今だからこそ妙な説得力がある。
映画のタイトルともなっている「PLAN75」
これは満75歳から生死の選択権を与える制度の事で、国会で可決・施行され超高齢化社会の問題解決策として世間に受け入れられている。
75歳以上が自ら生死を選択できるという制度が施行された近未来は100%有り得ない……とも言えない恐ろしさと仄暗さを含んでいた。
夫と死別しひとり静かに暮らす78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)、市役所の「プラン75」申請窓口で働くヒロム(磯村勇斗)、死を選んだお年寄りをサポートするコールセンタースタッフの瑶子(河合優実)など、いくつもの視点から「プラン75」制度の在り方が映し出される。
感情をあまり表に出さないような人物が多く明るい場面がほとんどない作品ではあるが、だからこそ俳優陣の演技が非常に重要で言葉ひとつひとつや表情や目で静かに語る様子から熱いメッセージを受け取る事が出来た。
この作品は観る者に様々な気付きを観る者に投げかけている。
制度に反対する人もいれば感謝する人もいて、実際にその立場になってみないとわからない部分も多いとは思う。
ただ、もしも本当にこれが制定された時にこの制度に翻弄される人々が出てくるだろう事は容易に想像出来た。
どう決断し、どう感じるのか。
オープニングタイトルが出てくるまでの数分にその全てが詰まっていると言っても過言ではない程、重要な冒頭シーンなので遅れて入場して最初を見逃す事のないように気をつけて欲しい。
映画『PLAN75』は、これが長編デビュー作となる早川千絵監督が、是枝裕和監督が総合監修を務めたオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の一編として発表した「PLAN75」を自ら長編化した作品である。
第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品しカメラドールのスペシャルメンション(次点)に選ばれた。
日本が少子高齢化に対しどのように対応していくのか、どのような対策をとりそれがどう結果に結びつくのかに世界中から注目が集まっているというのは確かだ。
出演 : 倍賞千恵子
磯村勇斗 たかお鷹 河合優実 ステファニー・アリアン 大方斐紗子 串田和美
脚本・監督:早川千絵
脚本協力:Jason Gray
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
上映時間: 112分
公式サイト
©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee