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鬼才・白石和彌監督作品【死刑にいたる病】 作品レビュー

作品紹介

2013年度賞レースを席巻した、史上最悪の凶悪事件とその真相を描いた問題作『凶悪』で注目を集め、恋愛ミステリーに挑戦した『彼女がその名を知らない鳥たち』や、警察とやくざの血で血を洗う攻防戦を過激な描写も辞さずに描いた『孤狼の血』でも数々の映画賞を獲得。今日本映画界で最も注目かつ高い支持を得ている白石和彌監督が、注目の作家・櫛木理宇の最高傑作『死刑にいたる病』を映画化。

日本犯罪史上類をみない数の若者を殺した連続殺人鬼・榛村を演じるのは、NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」で主人公の田畑政治役を熱演し、白石監督とは『彼女がその名を知らない鳥たち』(ブルーリボン賞主演男優賞受賞)以来のタッグとなる阿部サダヲ。収監されている榛村の元に通い事件の真相に迫る雅也には、ドラマ「中学聖日記」で有村架純の相手役として衝撃のデビューを果たして以来、「MIU404」や「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」、NHK大河ドラマ「青天を衝け」など話題作への出演が続く注目の若手俳優・岡田健史。

ストーリー

史上最悪の連続殺人鬼(シリアルキラー)からの依頼は、たった一件の冤罪証明だった――
24件の殺人容疑、うち9件が立件・起訴、第一審で死刑判決確定、史上最悪の連続殺人事件に隠された恐るべき真実とは――
注目の作家・櫛木理宇の最高傑作と謳われる同名小説を、日本映画界随一の鬼才・白石和彌監督が実写映画化。
殺人への底知れぬ欲求を隠しながらも関わる者が皆なぜか魅了され心を許してしまうシリアルキラー・榛村大和役を務めるのは、その多才ぶりと高い好感度で人を惹きつけてやまない個性派俳優・阿部サダヲ。元優等生ながら受験に失敗したことから殻に籠もり、鬱屈と孤独に苦しむ大学生・雅也役は爽やかな印象が強い実力派若手俳優・岡田健史が務め、その危うさを体現する。一件の冤罪をめぐり二転三転する真実、深まる謎――誰も予測できない驚愕のラストがあなたを待ち受ける。

作品レビュー

「凶悪」「孤狼の血」の白石和彌監督が櫛木理宇の小説「死刑にいたる病」を映画化したサイコサスペンス。

相変わらずというか、流石というか、白石監督の映し出す”人間の狂気”というのは同ジャンルに系統される多くの邦画よりも飛び抜けて酷い。

それはもう、清々しい程に残虐極まりないのだ。

観た後に胸に残り続ける嫌悪感。これこそが白石作品の後味であり、彼の作品に魅了される理由なのである。

今回もその印象を裏切らず、寧ろ期待を遥かに超えるものを届けてくれた。

志望校への合格が叶わず理想とは程遠い大学に通い、無気力で鬱屈した日々を送る筧井雅也(岡田健史)。

家族との関係も良好とは言えない実家は居心地が悪くほとんど帰省する事のなかった雅也が、身内の不幸により久しぶりに訪れた際に目にした自身宛の一通の手紙。

それは、世間を震撼させた連続殺人事件の犯人・榛村大和(阿部サダヲ)からのものだった。

雅也は中学生だった頃地元でパン屋を営んでいた榛村の店をよく訪れていた。

そこでの榛村は連続殺人犯とは程遠い優しくて気さくな印象で、善良な市民として溶け込んでいた。

手紙の中で榛村は自身の罪を認めたものの、最後の事件は冤罪だと訴える。

真犯人は誰なのか、真相は何なのか。

調べるにつれこの事件にのめり込み、人が変わったようになった雅也がたどり着いた残酷な真相とはー

榛村は 24件の殺人容疑で逮捕され死刑判決を受けている。

この情報だけでも既に常軌を逸しているのだが、そんな榛村の配役を阿部サダヲに決めたというのが驚きだ。

今までの役柄はどれも人の良い優しい男性のイメージで、白石作品での『彼女がその名を知らない鳥たち』でさえも献身的に愛を捧ぐ男性役だった。

そんな彼をシリアルキラーである榛村役に決定した時点で、この作品の成功は決まったようなものだろう。

初めてみる不気味なほど冷静な彼の姿は、紛れもなく少年少女を標的とした連続殺人犯そのものだった。

パン屋の主人としての榛村の明るくて気のきく穏やかな男性というオモテの顔と、淡々と人の命を奪うサイコパスとしての顔。

なんて事ないような仕草で次々と拷問・殺人を繰り返すその姿はあまりにも冷酷で理解し難いものがある。

『凶悪』で魅せたリリー・フランキーの飄々とした支配者ともまた違う阿部サダヲの狂人ぶりは今後忘れる事が出来ないくらいのインパクトを残した。

同じく主演を努めた岡田健史の真面目で不器用な様も完成しきっていない危うさを秘めていて雅也に合っている。

白石組常連の音尾琢磨によるリアリティのある演技も良かったが、雅也の母親役を演じた中山美穂が印象に残った。

幼い頃のトラウマに加え旦那に威圧される抑え込まれた感情の表現が絶妙で、息子にすらうまく頼れない苦渋の表情や怯えた声色がより一層悲壮感を強めている。

最後の最後まで人を苦しみのどん底に陥れる白石監督の手法。頭では分かっていてもやはりまた度肝を抜かされた。

登場人物に共感出来ない部分や不快感を抱くこの感情こそが、白石作品を観る醍醐味なのではないだろうか。

【死刑にいたる病】

出演:阿部サダヲ、岡田健史、岩田剛典、中山美穂
監督:白石和彌
脚本:高田亮
原作:櫛木理宇「死刑にいたる病」(ハヤカワ文庫刊)
2022年|日本|カラー|129分|シネマスコープ|5.1ch|PG-12
配給:クロックワークス
公式HP
©2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

 

投稿者プロフィール

兼平ゆきえ
兼平ゆきえ
映画・音楽・本 など 観たり聴いたり読んだりと忙しく過ごすのが好きなインドア派。恵庭発 北海道のMUSIC&ART情報サイト From E…代表。不定期で企画LIVEを開催。2018年7月から 恵庭市のコミュニティFM e-niwa にて、映画や音楽の話を中心とした番組『From E…LIFE(フロムイーライフ)』を放送開始。
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