ケイト・ウィンスレット×シアーシャ・ローナン圧巻の共演!心の痛みと恍惚を繊細に描き上げる、愛の物語。
2020年、開催を見送られた第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションに選ばれ、第45回トロント国際映画祭で「ようやく観ることができる!」と観客の熱気が最高潮に高まるなど賞賛を集めている本作。まず注目されるのは、四半世紀にわたって世界の映画界の中心的存在と称えられるアカデミー賞女優ケイト・ウィンスレットと、26歳にしてその鮮烈な演技でアカデミー賞4度のノミネートを誇るシアーシャ・ローナンの初共演。世に忘れられた古生物学者メアリーと、裕福な化石収集家の妻シャーロットという、真逆でありながら、ともに孤独を抱えた女性を演じた2人は、共にアカデミー賞大本命との呼び声も高く、映画ファンなら見逃せない演技合戦が、観客を圧倒する。
そして今、真に女性の生きやすい世の中を創り出そうとする流れの中で、歴史に埋もれながらも自分を貫いた実在の古生物学者メアリーにスポットライトを当て物語を紡いだのは、長編デビュー作『ゴッズ・オウン・カントリー』でその繊細な手腕を高く評価されたフランシス・リー監督。長編2作目にして既に全世界の注目を集める本作で、孤独の中に埋もれた自分を発掘していく女たちの物語を、繊細かつ大胆に描き上げていく。
人間嫌いで、世間とのつながりを絶ち暮らす古生物学者メアリー。かつて彼女の発掘した化石は一世を風靡したが、今はイギリス南西部の海辺の町ライム・レジスで、観光客の土産物用アンモナイトを探して細々と生計をたてている。そんな彼女はある日、裕福な化石収集家の妻シャーロットを預かることになる。美しく可憐で奔放、何もかも正反対のシャーロットに苛立ち、冷たく突き放すメアリーだが、自分とはあまりに違うシャーロットに惹かれる気持ちをどうすることもできず―。
ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンの実力派女優の共演とのことで、2人のネームバリューで興味を惹く人も多いだろう。私もその中の一人である。そして実際この2人の演技力に尽きる映画である。
「タイタニック」によって一躍脚光を浴びることになったケイト・ウィンスレット。作品を選びながら出演していたせいか、上手にキャリアを重ねていき2008年に「愛を読む人」によってオスカーを手にした。未だ26歳のシアーシャ・ローナンは、既に4度のアカデミー賞にノミネートされている。
とてもセリフが少なく場面展開も限られている。ストーリーも淡々としているので飽きそうなところだが、妙に引き込まれてしまうのはこの2人のせいだろう。
ケイト・ウィンスレット演じる古生物学者メアリーは世間から距離を置き、人と会話することも苦手で、滅多に笑顔を見せない。1840年代の話だ。当時は現代より階級や男性優位な社会だったので、女性の実力が世に認められるのはとても難しい時代だったろう。そんな中でメアリーは母親と2人貧しく、孤独な生活を送っていた。結婚や子供などとうに諦めている。
そこに突如現れた若く美しい裕福な女性、シアーシャ・ローナン演じるシャーロットが現れる。メアリーにとってまさに黒船だったに違いない。
死産によりうつ病を患い、夫に療養と銘打って置き去りにされたシャーロット。それぞれがそれぞれの思いを抱え、中々打ち解けられないが徐々に心を通わせていく。というか、元々は社交的なシャーロットがメアリーの閉ざされた心の闇に隙間を見つけ、こじ開けていった。
このメアリーがシャーロットにこじ開けられていく樣の演技が、本当に素晴らしい。感情表現が皆無なメアリーの心の動きが、ケイト・ウィンスレットによって手に取るように観客に訴えかけてくる。
本作は女性同士のラブストーリーだが、不思議と全く違和感がない。そして実在した人物を題材としている。だが女性ということもあり、資料がほとんど残されていなかったようだ。そんな中で監督であるフランシス・リーが想像を張り巡らせ行き着いた先が、自然と同性同士の恋愛物語だったとのこと。その監督の思考が作品に現れているからこそ、我々観る者にとっても、すっと入ってきたのだろう。
正直この映画は大人向けだと思う。R15作品だがそういうことではない。おそらく20代の頃の自分だったら、理解できなかったのではないかと思う。2人の過去は克明に描かれておらず、セリフも少ないので行間を読む作業が生じる。色々と想像しながら楽しむ作品なので、ラストも私はとても意外だったが、人によっては見方が異なるかもしれない。
最初外はずっと曇り空だった。だがメアリーとシャーロットが結ばれてから、晴天が広がるようになった。そういった演出にも是非注目してもらいたい。
タイトルの「アンモナイトの目覚め」は、これ以上ない見事なタイトルだと納得できるだろう。
監督・脚本:フランシス・リー『ゴッズ・オウン・カントリー』
出演:ケイト・ウィンスレット『愛を読むひと』、シアーシャ・ローナン『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
原題:Ammonite/イギリス/上映時間: 118分/R-15指定
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