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「梨泰院クラス」イ・ジュヨン主演『野球少女』 作品レビュー

作品紹介

わたしの未来は誰にもわからない。プロを目指す天才野球少女の終わりなき挑戦。今こそ出逢いたかった 情熱エンターテイメント!大ヒットTVドラマ「梨泰院クラス」で、世界が心を奪われた韓国の新世代スター、イ・ジュヨン最新主演作!

日本をはじめ世界各国に配信され、人々の心をわしづかみにしたTVドラマ「梨泰院クラス」で、トランスジェンダーの料理長役を演じ、大ブレイクを果たしたイ・ジュヨン。
今作のイ・ジュヨンが演じるのは、〈天才野球少女〉。最高球速134キロを誇る高校野球部のピッチャーとして数々のメダルを獲得するが、〈女子〉という理由だけでプロ球団への門戸を閉ざされる。1997年に韓国で女性として初めて高校の野球部に所属し、KBO (韓国プロ野球)が主催する公式試合で先発登板を果たした、アン・ヒャンミ選手をモデルに作り上げられたキャラクターだ。開拓者となったヒャンミ選手の努力と葛藤に迫るため、イ・ジュヨンは40日間の特訓を受け、すべてのシーンをスタントなしで演じきった。

ストーリー

球速134キロの腕が買われ、韓国で20年ぶりとなる高校野球の女子選手となり、「天才野球少女」と騒がれたチュ・スイン(イ・ジュヨン)。だが、夢のプロ球団に指名されたのは、スインではなくチームメイトで幼なじみのイ・ジョンホ(クァク・ドンヨン)だった。

仕事で忙しい母親(ヨム・ヘラン)からは、「卒業したらどうするの?」と詰め寄られ、「お父さんみたいにならないで」ときつく言い渡される。父(ソン・ヨンギュ)は宅地建物取引士の資格を取るために勉強しているが、もう何年も“受験生”のままだ。一家の生計もまだ幼い妹の世話も、母が一手に引き受けていた。

野球以外の道など考えられないスインは、プロチームのトライアウトに申し込むが、受け付けで女子だというだけで相手にされない。親友のハン・バングル(チュ・ヘウン)に相談するが、彼女も自分の夢であるアイドルのオーディションのことで頭がいっぱいだ。野球部のパク監督からも、韓国女子野球連盟に入って趣味として続けるよう諭されてしまう。さらに、スインの投球を見た新コーチのチェ・ジンテ(イ・ジュニョク)からは、「あれが最速か? 女子かどうかは関係ない。お前は実力がない」と断言される。

150キロを投げてプロに行く、あらためてそう決意したスインは、夜遅くまで手に血を滲ませながら一人で黙々と練習を続ける。そんな彼女を見ているうちに、ジンテは心を動かされ始める。彼もまた独立リーグでプロを目指していたが叶わず、酒に溺れ妻子にも見放されてしまったところを、パク監督に拾われたのだ。

ジンテはスインを連れて、知り合いのスカウトにトライアウトを受けさせてほしいと頼み込むが、女子が野球選手なんて、「サーカスじゃあるまいし」とバカにされる。帰り道、スインは諦めるどころか、「わたしの未来は誰にも分からない。私でさえ」とジンテに切々と訴えるのだった。

スインの選手記録を読むジンテに、あるアイディアが閃く。翌日から、ジンテはスインと、これまでと真逆のトレーニングをスタートする。150キロは出せない短所を捨て、「回転数の高い球を投げられる」長所を活かすという作戦だ。目標が定まり、日々鍛錬を重ねるスインをジョンホも応援する。

野球は諦めなさいと迫る母親からの命令で、スインは母の勤める会社で働き始めるが、夜には練習を続ける。そんなスインに、ようやくチャンスが巡ってきた。例のスカウトが試合で投げるスインを見て、ようやくトライアウトへの参加を許可してくれたのだ。

ジンテにジョンホ、そして母親が見守る中、スインは夢に向かって、第1球を投げる──。

作品レビュー

タイトルから勝手に想像し、熱いスポ根映画かと思っていたが大きく覆された。

いや、物凄く熱いことに違いはないが海底の奥底で沸々と煮えたぎっている熱さだ。それが表面化されていない理由はとにかく暗いのだ。登場人物みな暗い。

主人公スインは小さい頃より「天才野球少女」と騒がれているちょっとした有名人。球速135kmがウリだ。高校でも女子一人で野球部に所属しプロ野球選手になることを目指している。家計の一手を担う母親には高校卒業後について詰め寄られるも全く耳を貸さず、彼女の頭の中は野球のことしかない。

実力云々よりも大前提で女という巨大なハンデがスインに立ちはだかる。監督は趣味として野球を続けることを勧めるも「趣味はお金がかかる」とスインは譲らない。合宿にも「お金がかかる」と参加せず球速150kmを目指し一人猛特訓する。

父親は宅建の資格を取るため何年も勉強していたがついに自分自身に負けてしまう。新しく赴任してきたコーチもプロになれず挫折し妻子に見放され養育費の支払いもままならない。アイドルを目指す親友は一向に芽が出ない。唯一の笑顔はスインの幼い妹だがそれが逆に物悲しい。

暗い!暗すぎる!

誰もが思い通りにならず歯痒さを抱えながら悶々としている。そしてその根底に貧困という問題がある。

だが最初こそ冷たかった新コーチもスインのひたむきさに打たれスインの球速ではない持ち味に目を付け方向転換させる。母親も貧しい悔しさの矛先をスインに向けていたが、自分の過ちを認めスインを応援し始める。

皆諦めたくてもまだどこかで期待している自分がいた。その中で唯一諦めていなかったスインによって何かが変わり始める。

果たしてスインはプロになれるのかーー。この作品は明るくなるのかーー。

韓国に実在するモデルが元となった本作であるが、スインを演じるイ・ジュヨンは40日間の特訓によりスタントを立てずに演じている。目の奥に宿っている精神力はスインそのものを感じさせる。若くまだまだ伸び代のある魅力的な女優の一人だろう。

コーチとスインの母親との会話で「本人が諦めていないのに我々が先に諦めてどうするんですか」というとても印象的な台詞がある。スインは最初から最後まで自分がプロ野球選手になることしか考えていない。母親の気持ちを思うと就職して少しでも早く家計を助けるべきではないかと思ってしまう。私には母親が「娘の気持ちを尊重しない身勝手な母親」には到底思えなかった。むしろ娘を思ってるからこそではないだろうか。だからこそ最後の母親のシーンは涙を流さずにはいられない。

暗い=つまらないではない。とても完成度の高い良質な作品だといえよう。登場人物一人一人の視点に自然と立たされる。自分が知らないだけでマイノリティは色んなところに存在していると気付かされる。

いつか日本でも女性のプロ野球選手が現れるのだろうか。残念ながら今は全く想像できない。

予告動画

『野球少女』

監督・脚本:チェ・ユンテ
出演:イ・ジュヨン 「梨泰院クラス」 イ・ジュニョク 「秘密の森」 ヨム・ヘラン「椿の花咲く頃」 ソン・ヨンギュ 『エクストリーム・ジョブ』
2019年/韓国/韓国語/105分/スコープ/5.1ch/英題:Baseball Girl /日本語字幕:根本理恵
配給・宣伝:ロングライド
公式サイト
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投稿者プロフィール

坂本早苗
札幌市内で働くOL。
ストレス発散はテニスで体を動かすことと大好きなパンを求め全国のパン屋さんの情報収集。着る服は骨格診断を意識しています。
映画は年齢と共にミニシアター系が好みに。
沢山の映画と出会い、観て聴いて考えてお気に入りを探していきたいです。
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