200万人の胸を震わせたあの場面が、まったく異なる印象で迫ってくる。
この映画は、大ヒット映画『この世界の片隅に』の単なる長尺版ではない。250カットを超える新エピソードによって、これまで目にしていたシーンや人物像が、まったく異なる印象で息づきはじめる。『この世界の片隅に』を知る人も、知らない人も1本の‟新作“として体感することになるだろう。
すずの内面を大人の表現で魅せる女優のん、岩井七世(リン役)、細谷佳正(周作役)など、前作のキャストがパワーアップして再集結。さらに遊郭の女性テル役として花澤香菜が初参加。コトリンゴによる書き下ろしの新曲と共に、私たちを新たな世界へといざなう。
誰もが誰かを想い
ひみつを胸に 優しく寄り添う
広島県呉に嫁いだすずは、夫・周作とその家族に囲まれて、新たな生活を始める。昭和19年、日本が戦争のただ中にあった頃だ。戦況が悪化し、生活は困難を極めるが、すずは工夫を重ね日々の暮らしを紡いでいく。
ある日、迷い込んだ遊郭でリンと出会う。境遇は異なるが呉で初めて出会った同世代の女性に心通わせていくすず。しかしその中で、夫・周作とリンとのつながりに気づいてしまう。だがすずは、それをそっと胸にしまい込む……。
昭和20年3月、軍港のあった呉は大規模な空襲に見舞われる。その日から空襲はたび重なり、すずも大切なものを失ってしまう。 そして、昭和20年の夏がやってくる――。
2016年に公開され、ロングランで大ヒットした現行版の「この世界の片隅に」。本作は時間の都合上でカットした遊郭で働く女性リンの物語を取り入れ、続編でもディレクターズカット版でも無い、新たなエピソードとして加え、現行版とは一味違う印象の物語へと仕上がっている。
すずの夫・周作には、実は結婚前に想いを寄せた女性がいたことを知る。
現行版ではっきりと汲み取れなかった、主人公すずの結婚への思いや、すずの恋愛感情と心模様、夫・周作への想い、水原哲や白木リンの間で揺れるすずの複雑な気持ちが丁寧に描かれている。
すず、周作、リンの新たな物語が加わることで現行版に深みが増し、四季の美しい映像とコトリンゴの挿入歌が爽やかな感動を呼び起こす。
第二次大戦中に創意工夫しながらも、ささやかに楽しく暮らす、すずを中心にした家族の日常は、ほっこりと心温かいストーリーもあるが、辛い第二次大戦の激しい戦況と食糧不足を残酷に映し、広島に人類初投下された原爆と、軍港であった呉市の空襲の恐ろしさが伝わる。
人々が戦争で得る物は何も無い、殺戮はただ悲しみを生む愚かな行為である。この日本で戦争があったことを知らない人々が増えた今、その時代に生きた人々の困難な暮らしを伝え続けることは大切だ。この映画は戦後70年以上続いている、今の平和を見つめる良い機会であり、細やかな反戦映画でもある。
監督:片渕須直
原作:こうの史代
脚本:片渕須直
声の出演:のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月、小野大輔
配給:東京テアトル
上映時間 : 160分
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©2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会