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鬼才ジョーダン・ピール監督 サスペンススリラー『アス』 作品レビュー

作品紹介

「ゲット・アウト」がアカデミー賞にノミネートされ、脚本賞を受賞するなど大きな話題を集めた ジョーダン・ピール監督が、自分たちとそっくりの謎の存在と対峙する一家の恐怖を描いたサスペンススリラー。

ストーリー

夫のゲイブ、娘のゾーラ、息子のジェイソンとともに夏休みを過ごすため、幼少期に住んでい たカリフォルニア州サンタクルーズの家を訪れたアデレードは、不気味な偶然に見舞われたことで過去のトラウマがフラッシュバックするようになってしまう。そして、家族の身に何か恐ろし いことが起こるという妄想を次第に強めていく彼女の前に、自分たちとそっくりな“わたしたち” が現れ……


作品レビュー

この世でいちばん怖いモンスターは何か。
監督のジョーダン・ピールはこう語る。
「それは自分自身、つまりドッペルゲンガーだ」と。

映画は奇妙だけれど印象に残る映像から始まる。
それは1986年に実際にあった「ハンズ・アクロス・アメリカ」という慈善イベントである。
アメリカ国内のホームレスや貧困層の救済を目指した崇高なイベントではあったが、このイベントは決して成功とは言えなかった。

富裕層と貧困層との広がる格差。
ホームレスと自分との間になんの違いがあるのか、もしも自分が貧しい家に生まれたら…
この映画は二面性を巧みに表現した深遠で複雑な物語だ。

物語の中心となるアデレードは夫のゲイブ・娘のゾーラ・息子のジェイソンと共に夏休みを過ごす為、サンタクルーズの家を訪れる。
ありふれたごく普通の家族の幸せな夏休み。
極度に心配するアデレードをよそに、ゲイブはビーチへ行く事を提案。幼少期に彼女がそこに住んでいた頃にも訪れたビーチなのだが、アデレード自身は全く乗り気では無い。
ゲイブや友人らにとっては開放的で魅力あるビーチでも、彼女にとって当時サンタクルーズで起こった出来事は強いトラウマとなっているからだ。
トラウマとなった日の一部を先に観せられている私たち観客は、アデレードと同じ恐怖と不安を持ちながら映画を観進める事になる。
それ故にこの楽しいはずのビーチでの時間すらも全く気を抜くことが出来ないという絶妙な構成となっていた。

ビーチで見舞われた不気味な偶然は家に戻ってからも次々に起こり、もはや観ている側は恐怖しかない。
家族の身に恐ろしい事が起こるのでは?という彼女の心配は妄想では無く現実のものとなるのだが、その登場シーンが非常に気持ち悪い。
家の前に自分達とそっくりな“Us=わたしたち”がやってくるのだ。
そっくりな者たちが語る内容から垣間見る事の出来た地下での生活。
リビングや貯蔵庫などのデザインは、全ての部屋と建築に同じサイズの正方形や直線を多用しあえて居心地の悪い整頓の空間を作り出していた。

映画を観終えて尚 心底落ち着かない気持ちになるのは『ゲット・アウト』と異なる点でありそれこそが監督の狙い通りなのだろう。
ミステリーというよりもスリラーの印象が強く残る作品だった。
少しばかり強引でつじつまが合わない事は気にしないで、身に迫る恐怖をゾクゾクしながら観るのがいいだろう。

主演はルピタ・ニョンゴ。
他に、ウィンストン・デューク、エリザベス・モス、ティム・ハイデッカーなどが出演している。

貧困は現代のアメリカの最も大きな問題の一つであり、その事に国民も気付いている。
1986年も現在も何も変わらない。
変わらないけれど、変えたいと思っている人達がいるのも確かだ。

予告動画

『アス』9月6日 ユナイテッド・シネマ札幌 ほか 全国ロードショー 

キャスト:ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク、エリザベス・モス、ティム・ハイデッカー、シャハディ・ライト・ジョセフ、エヴァン・アレックス、カリ・シェルドン、ノエル・シェルドン
監督・脚本:ジョーダン・ピール(「ゲット・アウト」)
配給:東宝東和
上映時間 :116分
公式サイト

(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS

投稿者プロフィール

兼平ゆきえ
兼平ゆきえ
映画・音楽・本 など 観たり聴いたり読んだりと忙しく過ごすのが好きなインドア派。恵庭発 北海道のMUSIC&ART情報サイト From E…代表。不定期で企画LIVEを開催。2018年7月から 恵庭市のコミュニティFM e-niwa にて、映画や音楽の話を中心とした番組『From E…LIFE(フロムイーライフ)』を放送開始。
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