身に覚えのないことで不利な状況に陥り、気がつくと日常が崩壊し始めていた。誰にでも起こりうるかもしれない人生の不条理に、人はどう立ち向かえるか― 2016年『淵に立つ』で、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞、世界から注目を集めた若き鬼才・深田晃司監督。あれから2年、同作で毎日映画コンクール主演女優賞他、数々の映画賞を受賞した筒井真理子を主演に迎え、自身のオリジナル脚本による渾身の問題作を完成させた。
“演技者としての天才的なセンスを持つ”と監督が絶賛する女優・筒井真理子が演じるのは、市子/リサという異なる横顔をもつヒロイン。彼女の運命を握る、怖ろしくも愛おしい“闖入者”、基子と和道を演じたのは、市川実日子と池松壮亮。人生に復讐するほど絶望し、それでも生きると決意した市子。逆境を受け入れ、しなやかな強さで歩み続けるヒロインの姿は、叫びたい全ての女性に希望を与えてくれるに違いない。
訪問看護師の市子は、その献身的な仕事ぶりで周囲から厚く信頼されていた。なかでも訪問先の大石家の長女・基子には、介護福祉士になるための勉強を見てやっていた。基子が市子に対して、密かに憧れ以上の感情を抱き始めていたとは思いもせず――。ある日、基子の妹・サキが行方不明になる。
一週間後、無事保護されるが、逮捕された犯人は意外な人物だった。この事件との関与を疑われた市子は、ねじまげられた真実と予期せぬ裏切りにより、築き上げた生活のすべてが音を立てて崩れてゆく。すべてを失った市子は葛藤の末、自らの運命へ復讐するように、“リサ”となって、ある男の前に現れる。
数々のドラマや映画で光る脇役として活躍している筒井真理子だが、主演でも全く引けを取らない存在感があった。役柄がピッタリで、それは『淵に立つ』で既に彼女の魅力を周知した上でメガホンをとった深田晃司監督だからこその技だったように思う。
ストーリーはサスペンスというよりはヒューマンドラマに近いかもしれない。最初はひとつのボタンの掛け違い程度だったのに、気付いた時には取り返しのつかない事態にまで陥っていた主人公の市子。
真面目に献身的に仕事をこなし、女としての幸せも掴みかけたその時にまさかの事件が起こる。自分が市子だったらと考えるもどうにも正す方法が見つからない。人の思いや考えは時に思いもよらぬ方向に向かっていることがある。市子の落ち度はその想像力だったのかもしれない。
ただ言える事は彼女は「無実の加害者」なんかではなく、「もう一人の被害者」だった。市川実日子演じる素子の証言を祭り上げたマスコミに追いかけ回される日々。職場を追われ新しい家族を失い、身一つで人生をやり直すには市子の年齢には辛すぎるだろう。復讐を考えるのは自然な流れのように思う。
本作の見所はタイトルにもある筒井真理子が魅せるあらゆるシーンの「よこがお」はもちろんのこと、市川実日子の類稀な演技も見て欲しい。難しい役所だったとは思うが難なくこなしている。これからも彼女の活躍には期待したい。
そして市子はどうしたらよかったのか、そしてどうしたかったのか想像を巡らせて欲しいと思う。
脚本・監督:深田晃司
出演:筒井真理子 / 市川実日子 池松壮亮 / 須藤蓮 小川未祐 / 吹越満
2019/111分/カラー/日本=フランス/5.1ch/ヨーロピアンビスタ
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