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前田敦子主演『旅のおわり世界のはじまり』作品レビュー

作品紹介
シルクロードの美しい風景の中で描かれる心の冒険-
国内外で圧倒的評価と人気を誇る映画監督・黒沢清が、ウズベキスタンに1か月まるまる滞在し広い国土を存分に使ってロケ撮影された本作は、観客も一緒に異郷を旅しているような、ロードムービーとしての魅力に溢れた目覚めの物語。

雄大なシルクロードの風景からホコリっぽい街角の雑踏、バザールの熱気までをドキュメンタルに切り取り、1コマごとに主人公の心の移ろいを映し出している。

主人公・葉子を演じるのは前田敦子。監督が「フレームに写っただけで独特の強さと孤独感が漂う」と話すとおり、異国の地に投げ込まれた不安や緊張を、繊細な表情で伝えている。
また、本作で名曲「愛の讃歌」の歌唱に挑戦。クライマックスでは標高2,443mの山頂でアカペラの撮影に挑み、この現場で収録された歌声が劇中で使用されている。

そして、葉子と行動を共にする番組クルーを演じているのは、加瀬亮、染谷将太、柄本時生。本物の撮影スタッフと見紛うリアルさで、絶妙のチームワークを見せている。

ストーリー

心の居場所を見失ったら? 扉を開く鍵はここにある─

テレビリポーターを務める葉子は巨大な湖に棲む“幻の怪魚”を探すため、番組クルーと共に、かつてシルクロードの中心地として栄えたこの地を訪れた。夢は、歌うこと。その情熱を胸に秘め、目の前の仕事をこなしている。収録を重ねるが、約束どおりにはいかない異国でのロケで、いらだちを募らせるスタッフ。

ある日の撮影が終わり、ひとり街に出た彼女は、聞こえてきた微かな歌声に誘われ美しい装飾の施された劇場に迷い込む。
そして扉の先で、夢と現実が交差する不思議な経験をする─。
彼女が、旅の果てで出会ったものとは…?

作品レビュー

カンヌを始め、国内外で高い評価を受ける黒沢清監督最新作。
前田敦子を主演に迎えた『旅のおわり世界のはじまり』は、シルクロードを巡るロードムービー。
テレビ番組のレポーター・葉子(前田敦子)が、番組ディレクター・吉岡(染谷将太)、カメラマン・岩尾(加瀬亮)、AD・佐々木(柄本時生)、通訳・テムル(アディズ・ラジャボフ)と共にシルクロードを旅するストーリーだ。

“シルクロードを旅する”というと聞こえはいいけれど、このクルー全体の雰囲気は良いとは言えない。
思いやりが足りず感情が希薄なディレクターは身勝手なように感じたが、葉子も大概だ。
異国での撮影が思うように進まない事によるフラストレーション。自分のやりたい事とは離れて行くように感じながら淡々とこなす仕事。
2人の思いやりのなさは観ていて気分が良くないが、登場人物の感情の抑揚があまり無いからか不思議と苛立ちはない。
心が無になりそうになる中、優しいAD佐々木の気遣いに癒され、カメラマン岩尾の言葉にはハッとさせられる。
普段あまり馴染みの無いウズベキスタンを舞台にする事で、日本人の本質を垣間見たような気がした。
葉子が気付くべき重要なポイントを、テムル始めウズベキスタン人が教えてくれるのは敢えてなのだろう。

かつてシルクロードの中心として栄えた地。
広大な自然や活気ある街並みに美しい建造物。そしてそこからすぐそこにある薄暗く不穏な場所も映し出されている。
今までこの国について考えた事が無かったのだが、ウズベキスタンの魅力を知る事の出来る貴重な作品だ。

自分の夢を見失いそうになる時、目の前の慌ただしい日々に大切な事を忘れそうになる時、大人になるにつれて度々やってくる”節目”。
生きていると、ふと自分の人生について考えさせられるような場面が訪れる。
夢はあってもなくても良いと思うが、目標や希望は持っていた方が生きるのが楽しい。
何もない、と思う人にも心の奥ではきっと思い描く未来があるはず。
ウズベキスタンの景色を見ながらそんな事をぼんやりと思った。

予告動画

『旅のおわり世界のはじまり』7月12日(金)札幌シネマフロンティアにて公開!


監督・脚本:黒沢 清
出演:前田敦子、加瀬 亮、染谷将太、柄本時生、アジズ・ラジャボフ
配給・宣伝:東京テアトル
上映時間: 120分
公式サイト
(C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO

投稿者プロフィール

兼平ゆきえ
兼平ゆきえ
映画・音楽・本 など 観たり聴いたり読んだりと忙しく過ごすのが好きなインドア派。恵庭発 北海道のMUSIC&ART情報サイト From E…代表。不定期で企画LIVEを開催。2018年7月から 恵庭市のコミュニティFM e-niwa にて、映画や音楽の話を中心とした番組『From E…LIFE(フロムイーライフ)』を放送開始。
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