渡辺一史の原作を大泉洋×高畑充希×三浦春馬のキャストで映画化した『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』
幼少の頃から難病の筋ジストロフィーを患い体で動かせるのは首と手だけという札幌在住の鹿野靖明(大泉洋)さんと、ボランティアの仲間達が過ごした日々が詰まったこの作品。
夢や目標に向かい逞しく生きる鹿野の人間力に感化され、皆が強く優しくなっていくストーリーには力を貰える。
今回は、2018年12月16日に行われたエキストラ出演者向けの舞台挨拶に登壇した前田哲監督(以下・監)と石塚慶生プロデューサー(以下・プ)の様子をお届けしたい。
監督とプロデューサー2人による舞台挨拶はなかなかのレアケースとの事。
映画同様強さと優しさが感じられるポルノグラフィティの主題歌「フラワー」がかかる中、お2人だからこその話も聞ける興味深い舞台挨拶となった。
本編上映後の舞台挨拶だった為ネタバレになりそうな部分は省略するが、観終えたばかりの方達が「また観たい」「友人や家族に薦めたい」と口を揃えて話す所からもこの作品の魅力が伝わってきた。
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司会(以下・司):まず、映画を作る成り立ちと言いますか映画と言うのはどのように企画されていくんでしょうか。
プ:長くなっちゃうので端的に言うと、今回の場合は前田監督と知り合って十何年か経つのに1本も映画を一緒に作ってなかったんですよね。
そこで3年半前に渡辺さんが書かれた原作を監督から「是非読んでくれないか」と言われて読んだら面白かった。
面白かったんですけども、ドキュメンタリー・ノンフィクションなのでこれをどうやって映画として作るのかさっぱりわからないという所ではあったんです。
そこで2人で色々、どういう風にしていくか考えていこうと言う事で始まったんです。
司:監督がこれを映画化したいと石塚プロデューサーに持ちかけたという事ですか?
監:そうですね。毎年映画を13年間 13作くらい作ってて 少し途切れたタイミングに石塚さんが声をかけてくれて「企画を30本出しませんか?」と言われたんです。
プ:色々な原作や漫画をリストにしてメールで送って貰ったんです。30本くらい。
監:30本くらいじゃなくて30本!(笑)
プ:僕が言ったんですね(笑)100本ノックみたいな。
監:最終的に2本残って検討したけどこれは映画に出来ないねという事で。
もっとメジャーをやる作品、例えば”感動作”をと言われて。
僕は”感動”を売り物にするのが苦手なんです。
その時に、感動と言うのは人の心を掴む・観客を掴むという意味だと言われたんですね。
そこで、感動を売りにしていると勘違いしていた『こんな夜更けにバナナかよ』を手にとってみたんです。
タイトルが気になって買っていたんですけどなかなか手に取れなかったのを読んでみたら感動モノとは全然違うじゃないか!と。衝撃を受けたんです。
企画の30本は駄目だったけど31本目ですよね。
ただ、ベストセラーでもないし有名な人でもない。
そこで、石塚さんの経験値で言うと『わが母の記』が3年かかったと。それぐらい時間をかけてでもこれはやる価値があるけどもその時間をかけられますか?というやり取りがありながら、これをやりましょう!と。
プ:色んな監督と仕事をしてきてるんですけど、前田さんと1番、述べ時間を考えたくもないくらい…3年半?想像出来ないです、何時間一緒にいたのか(笑)
監:これに関しては、時間のかけ方といいどんどん世界に広めたいと思った所はお互いあると思います。
プ:そこに、3人目のキーパーソンである橋本さんと言う脚本家が入ってきた事によって1994年の1年だけに絞ったんです。そう言う切り口を発見したりアイデア出ししながらやりました。
司:なるほど。どこを切り取るかというのは非常に大きいですね。
プ:その後大泉さんに演じて貰う為にも脚本が必要で、「これ面白い」「これやってみたい」と思って貰える脚本を作るのに1年半くらい。
監:13稿ありますからそれを経てですよね。
司:ある意味第1稿が見たいですね(笑)
監:初稿というか第3稿目の時に大泉さんにオファーしてOK貰って、クランクインの直前に大泉さんに最終稿出した時にその間を読んでいなかった大泉さんが「最初の良かったんだよねぇ〜、なんでこうなったの〜」ってなった部分があったんですよ(笑)
そこで4時間半、3稿目と最終稿と照らし合わせながら電話で夜明けまで確認を。
でも、それがあったからこそ大泉さんの言っている事 意とする事も分かりました。
高畑充希・三浦春馬とは直接話をして、そこで決められない話は宿題として持って帰って。
春馬くんは本当に毎日話してましたね。
司:僕は方言指導で入らせて頂いていたので半分くらいは現場に立ち合わせて頂いたんですね。
その中でとにかく印象的だったのが三浦春馬さんと監督が役について話してる事が多かったです。熱く語ってるというイメージがすごくありました。
監:熱くはありましたけどぶつかる事はほとんど無くて、一方的に「こうだからこうして」と言う事を僕は言わないので。
プ:1番は屋上のシーンでしたね。病院の屋上。
現場で観ていてもドキドキしましたよ。
監:彼の感情を出して貰う為に。春馬くんは真面目で役に対して真摯、真剣なんです。
役者というのはある日・ある時逸脱するべきというか、外れる瞬間、自分でもコントロール出来ない感情を出して欲しかったんです。
インタビューで彼が言ってたのを後で見たんですけど、「監督が挑発していた」と(笑)
挑発はしてました。
こっちでもっとこうしてくれ、ああしてくれと言うのは簡単なんですけどそれだと本当の感情は出ないのでそこは俳優さんが未知なるものを出して貰いたいというのが僕の考え方なので。
プ:もともと田中(三浦春馬)は感情をおし隠すキャラクターじゃないですか。
本当に難しいシーンだったと思うんですよね。
司:現場で沢山のセッション、ディスカッションが繰り広げられていたわけですね。
今回鹿野亭、鹿野さんが実際に暮らしていたお部屋。ここが空いているのも奇跡でしたよね。
プ:決まったのギリギリで、もうおかしいとしか思えないです(笑)
鹿野さんが空けておいてくれて「俺をもっと有名にしろ」と。
監:実際に担ぎ込まれた病院も最初撮影予定じゃなかったんです。
参考に観ますか?って言われて観に行って、やっぱりここだよねって。
病院も鹿野さんの映画だったら何とかしますと。
美瑛のペンションも実際に泊まられたペンションです。
司:凄いですよね。最後に一言お願いします。
プ:先入観無く観て頂ける作品にしたかったので、観終わった後に自分の何かが変わって頂けたらなと思います。
監:鹿野さんは惚れっぽくて寅さんみたいな人だなと思って作ってますので、お正月にぴったりの映画だと思っております。
口コミが1番力があるので、面白いと思った人は薦めて下さい。
ありがとうございました。
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監督・プロデューサーのお2人だからこそ聞けた話も多数あり、より一層この作品への思いも伝わってきた舞台挨拶。
病気で障害を持つ方達の住み良い環境作りやボランティアスタッフの不足だけでなく、現代社会で生きる私達の生きづらさなどと表現しているこの作品の奥深さを改めて感じられた。
撮影当時を振り返る中ではエキストラの撮影シーンで主演の大泉さんから突然10分くらいの挨拶があったというエピソードも飛び出し、実際にその場にいたというエキストラの方達もそのエピソードを楽しそうに聞いていた。
エキストラ出演の方からの質問に答えるコーナーではロケで1番大変だった事などを聞かれ、やってる時は大変だった事も終わったら全部良い想い出に変わるという監督の話もあった。
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の公開が12/28と迫る中、全国各地の多くの人に そして北海道の方には尚更観て頂きたいという思いが強くなった。
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