ハワイに佇む美しき湾・ハナレイ・ベイで死んだ息子と、10年間向き合い続ける女性サチ。
これは、<人生で一番大切な人>に会いたくなる希望の物語。
単行本と文庫本あわせ累計70万部を超えるロングセラー『東京奇譚集』(新潮文庫刊)の一篇である「ハナレイ・ベイ」は、ファンの間で村上文学史上屈指の名作として語られており、 この度待望の実写映画化となる。
主人公サチを演じるのは、主演から脇役まで目覚ましい活躍をみせ、まさに今最も輝く女優の一人である吉田羊。
サチの息子タカシを演じるのは、佐野玲於(GENERATIONS from EXILE TRIBE)。
シングルマザーのサチは、息子のタカシがハワイのカウアイ島にあるハナレイ・ベイで亡くなったことを電話で知らされる。
大好きだったサーフィン中に大きなサメに襲われ死んだという。彼女は、彼が命を落としたハナレイ・ベイへ向かい、海辺近くの大きな木の下で読書をして過ごしていた。毎年、この「行為」は続いた。同じ場所にチェアを置き、10年間。
だが、彼女は決して海には近づかない。ある日、サチは2人の若い日本人サーファーと出会う。無邪気にサーフィンを楽しむ2人の若者に、19歳で亡くなった息子の姿を重ねていくサチ。
そんな時、2人から“ある話”を耳にする。「赤いサーフボードを持った、片脚の日本人サーファーを何度も見た」 と・・・。サチは決意する。もう一度、息子に会うために―。
原作は村上春樹の短編集だが、知らなければ彼と本作は結びつかないかもしれない。
何故なら村上春樹特有の「曖昧さ」が本作にはない。
途中まで見えにくい主人公の気持ちが最後には確固たる意志をもって伝わってくる。
その主人公を演じるのは幅広い役柄で数多くの映画やドラマで活躍している吉田羊。
セリフが少ない分、彼女の表情や仕草で醸し出す演技が何よりも重要で、本作の鍵を握っていると言っても過言ではない。
そしてその役割を十分果たしていると思う。
鑑賞後は彼女でしか有り得ない、彼女のために作られた映画ではないかとさえ思わせてくれる。
そのくらい見事にハマっていた。
物語は回想シーンを織り交ぜながらお互いに無関心の冷めた親子関係を映す。
2人が住むマンションは生活感がまるでないモノトーンで統一された殺風景な部屋。
お金と物のみを息子に与え、その1人息子が遠く離れた島で事故死したと知らされても表情ひとつ変えず、葬儀を終えた当日早々に息子の部屋を片付ける母親。
そんな彼女が息子の命日に10年通い続ける島、ハナレイ・ベイ。
息子を奪ったその雄大な海の景色を眺めながら自分自身の気持ちを探っていく様がとにかく切ない。
後半のいくつかのシーンは彼女の激しい愛を感じ呼吸できなくなるほど胸が苦しくなる。
感情移入しすぎて意味もなく海を眺めに行きたくなってしまった。
数少ないキャストだが、イカれた夫役に栗原類を起用しているところも感心しきりだ。
是非とも村上春樹ファンに本作の感想を聞いてみたい。
原作:村上春樹「ハナレイ・ベイ」(新潮文庫刊『東京奇譚集』)
脚本・監督・編集:松永大司
出演:吉田羊、佐野玲於、村上虹郎、佐藤魁、栗原類
配給:HIGH BROW CINEMA
上映時間:98分
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