ミズーリ州のさびれた道路の3枚の広告看板にメッセージを出したのは、7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッド。犯人は一向に捕まらず、何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長にケンカを売ったのだ。署長を敬愛する部下や町の人々に脅されても、一歩も引かないミルドレッド。その日を境に、次々と不穏な事件が起こり始め、やがて思いもかけない、誰もが想像できないドラマが始まる──。
なんとも痛快極まりない作品だろう。現実では、やりたくても決して実現出来ないことを実行し、さらには、その事への反発を断固としてはねのける、この物語のヒロイン(ミルドレッド)に拍手を贈りたい。
まさに強くたくましいアメリカンヒ―ロ―の誕生だ。
娘をレイプされ殺された事件の捜査が、なかなか進展しない事に怒った母親ミルドレッドは、警察署長ウィロビ―に腹を立て、その警察署長を擁護する街の人たちにも牙を向け、ひとり闘い続ける姿は凄まじく、当所は受け入れ難く感じていても、徐々に共感が持ててくる。それは別れた夫のいい加減さであったり、この街を取り巻く風潮が全て、彼女を非難することでまとまっている「いじめ」環境を見せられると、意地でも彼女を応援したくなる。
ブルーの戦闘服に身を包んだ彼女の、なんと凛々しいことか。かつて西部劇のジョン・ウェインに重なってくる。
何故に彼女をここまで頑なにさせたのか?それはまさしく、自分の生活を守ることしか頭にない、現代社会への反発そのものではなかったのか。
三枚の広告看板は、そこに住む人のみならず、今を生きる人々全てに向けられたメッセージのようだ。今あなたは何をすべきなのか?
物語りは展開し、次に彼女がどのような行動をとるのか予想が着かない。一度動き出した歯車は、何を持って動きを止めるのか。ハラハラドキドキのうちに、全く予期しない結末になっていた。無論拍手喝采を惜しまない。
そして、この作品をより印象付けたのはイギリス民謡「楽しき我が家」だ。甘く切ないこのメロディーが、痛烈に耳に刺さってくる。ホームドラマに背を向けて、巨大な敵に立ち向かう、独りの母親の心の叫びに聞こえてきた。
【スタッフ】
監督:マーティン・マクドナー
【キャスト】
フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ
原題・英題:THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI
上映時間:116分
(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation